「異次元」の少子化対策で
指摘すべき2つの問題点

 そんな中、1月19日、内閣府では「異次元」の少子化対策に向けた関係府省会議の初会合が開催された。

 座長は、小倉将信こども政策担当相。会議には、内閣官房、内閣府、総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省の局長級が集まったところを見ると、「異次元」と銘打つだけあって、政府を挙げて取り組む姿勢だけはうかがえた。

 しかし、その中身がふに落ちないのだ。岸田首相が小倉担当相に示した基本的な方向は、

(1)児童手当などの経済的支援強化
(2)保育士の処遇改善や産前・産後のケアなど、幼児教育や保育のサービス拡充
(3)働き方改革の推進

 これら3つが柱となっている。このうち(2)には何ら文句はないが、(1)と(3)には問題がある。

 まず、(1)の児童手当などの経済的支援強化である。

 現在、子どもが生まれれば、出産費用は健康保険対象外のため40万~50万円程度かかるが、42万円が出産一時金として給付される。この額は今年4月から50万円に拡充される。このため出産費用の心配はそれほどない。

 子どもができればもらえるのが児童手当だ。現在は2歳までが1人当たり月額1万5000円、3歳から小学生までが月額1万円(第3子以降は1万5000円)で、中学生も1万円がもらえる。

 所得制限はあるものの、子どもが生まれ中学校を卒業するまでに1人当たり合計200万円近くもらえる計算になる。出生率が低い東京都は、来年にも1人当たり月額5000円給付を始める見込みだ。

 他にも、3~5歳までは幼保無償化の恩恵で保育園や幼稚園は無料、医療費も多くの自治体で15歳までは無料だ。加えて、所得によって異なるものの、高校無償化により公立高では授業料が実質無料、私立高でも授業料の補助が手厚くなった。

 筆者を含め多くの親は、聞かれれば、「子育ての費用? いくらあっても足りませんよ。もう家計は火の車ですよ」などと答えるものだ。

 しかし実態は、習い事や塾にかかる費用を除き、子育ての基本費用だけを見れば、思ったほど家計の負担にはなっていないのである。

 それにもかかわらず、児童手当を拡充する(第2子に月額3万円、第3子に月額6万円。対象を18歳まで拡大など)という。そうなればこれまでの2兆円に加え、さらに2.5兆円規模の予算が必要になる。「こどもは社会全体で育てるもの」と言えば聞こえは良いが、特段、必要のないものに増税で対処すると言われれば、「ちょっと待て」と言わざるを得ない。

(3)の働き方改革も現状では絵に描いた餅のようなものだ。厚生労働省によれば、2021年度の男性の育児休暇の取得率は約14%にとどまっている。去年10月から始まった「産後パパ育休」(出生時育児休業)の成果はまだ明らかではないが、企業に「休んでも昇進に影響を与えない」ことなどを確約させ、育休中に雇用保険から支給される「育児休業給付金」の給付率も引き上げなければ取得率の向上にはつながるまい。

 政府は、自営業者や非正規労働者を対象とした子育て支援の新給付制度を創設することも検討している。これ自体は悪いことではないが、それらの実現には、年間で最大1兆円程度の安定財源を確保する必要がある。それを「広く国民負担で」となれば、過去のさまざまな給付の成果を検証し、消費者物価が高騰する中、増税しただけの効果があるかどうかを慎重に見極める必要がある。

 筆者は、岸田政権が少子化対策を「異次元」とうたうのであれば、日本より深刻な韓国を参考に、晩婚化や未婚化など出産に関わるさまざまな事情を改めて検証すべきだと思っている。

 出産は結婚が前提という日韓の慣習、若者が直面する低賃金と将来不安、社会進出する女性の多さと自立などの側面から、財政支出だけでなく何が必要なのかを導き出してほしいものだ。