草刈機まさお、芝耕作…ダジャレ農機で年商70億円!福岡の笑撃メーカー成長秘話「まさお」で草を刈る様子 画像提供:吉村克己

「草刈機まさお」など、ユニークな商品を数多く手がける動力運搬車メーカー・筑水キャニコム(福岡県うきは市)。同社は「ダジャレ農機」の発売後、メディアで取り上げられる機会が増えたが、知名度アップに甘んじることなく地道に事業を拡大。今では年間売上高が70億円に上る。海外事業にも力を入れており、取引先は51カ国、海外売上高比率は約50%に達する。その成長過程を、商品のネーミングを担う代表取締役会長・包行(かねゆき)均氏に聞いた。(ルポライター 吉村克己)

「笑撃」の商品名で話題になるも
事業規模を着実に拡大

「草刈機まさお」「主役 芝耕作」「ブッシュカッタージョージ」「ピンクレディ」「安全湿地帯」……。これらは全て、草刈機や農業用運搬車をはじめとする作業機の商品名である。

 遊び心あふれる商品を次々と生み出しているのは、福岡県うきは市に本社を置く動力運搬車メーカー・筑水キャニコム(以下、キャニコム)である。

 商品のネーミングを一手に引き受けているのは、同社会長の包行(かねゆき)均(73歳)だ。包行が名付けた商品は、日刊工業新聞社主催「読者が選ぶネーミング大賞」ビジネス部門の1位に度々選ばれている。

「『この人の喜ぶ顔を見るために、こんな製品を作りたい』と開発意図がはっきりすると、ネーミングは自然に決まる。決してひねり出すようなものではないのです。『草刈機まさお』を出したときはネーミングの専門家に邪道だと言われたものですが、世界を含めてここまで定着するとその専門家も考えを変えましたよ」と、包行は豪快に笑う。

 有名な俳優の名をもじったような「草刈機まさお」は日本だけで通用する商品だと思われるかもしれないが、実は海外でも「MASAO」として人気だ。特に、芝生の多いオーストラリアに向けては、硬い草でも刈れるタイプの「MASAO」など、さまざまな商品を輸出している。

 単に商品名がユニークなだけではない。一般的な手押し草刈り機とは打って変わり、「草刈機まさお」はゴーカートを思わせるような赤と黄色の派手なデザインで、乗っても楽しい。さらに、25度の厳しい傾斜地も難なく刈り上げていく4輪駆動タイプも発売した。これらは一種の草刈り機革命だといえる。

「地元の花卉(かき、鑑賞用の花など)栽培農家のご主人は65歳ですが、『まさおに乗るようになって10歳若返った』と楽しんでもらっています。楽しさをお客様に提供するのが当社の目標です」

 そんなキャニコムは、商品名のユニークさと包行の人柄が注目を集め、これまで何度もメディアで取り上げられてきた。だが、同社は決して上昇した知名度に甘んじることなく、着実に事業を拡大してきた。

 現在、キャニコムの取引先は世界51カ国に広がり、海外売上高比率は約50%に達する。生産能力は年間1万機弱に上り、製品ラインアップは約200種。コロナ禍にもかかわらず順調に売り上げが拡大し、2021年度は70億円の売上高をあげた。22年度の売上高は80億円の見込みで、念願の100億円も視野に入っている。

 今回は、包行が手掛けたキャニコムの海外進出の歩みを追っていこう。地方発のユニークなメーカーは、どのようにして自社商品を海外に売り込んでいったのか。