あくまでもまとまった金額を増やそうとばかりに一気に投資をするのは止めた方が良いということであって、投資がだめというわけではない。

 シニアが投資をする目的は二つの“維持”にある。ひとつは「購買力の維持」、そしてもうひとつが「知的好奇心の維持」だ。

 投資の目的は収益を挙げることであるのは言うまでもないが、その方法として、「積極的にリスクを取って儲けよう」というやり方と「物価上昇などに備えて自分のお金の購買力を維持しよう」というやり方がある。

 公的年金は基本的に賃金・物価連動なので、今後物価が上昇しても心配ないが、自分が持っているお金は何もしなければ物価上昇によって価値が減ってしまう。だからあまり多くのリスクを取りにいくことは考え物だが、少なくとも購買力を維持する程度のリターンを求める投資はやっても良い、というかむしろやるべきかもしれない。

 これはグローバルに分散された株式投資信託を少しずつ積み立てていくのが適切なやり方と言えるだろう。

「知的好奇心の維持」に
株式投資が最適

 もうひとつが「知的好奇心の維持」である。なぜそれが大切なのかと言えば、現役をリタイアした後はそれまでと比べて社会とのつながりが希薄になりがちだからだ。

 多くの退職者は、のんびりと暮らしながら時たま訪れる孫の相手をして楽しむといったように、その関心の多くが自分の趣味や身の回りのことに限られることになりがちである。もちろんこれが悪いわけではない。リタイアした後は自由なのだから、自分のやりたいことをやればいい。無理をする必要はまったく無い。

 でも、もし多少なりとも好奇心があるのなら、やはり投資、それも投資信託ではなくて株式投資をした方が良いと思う。

 筆者自身も「購買力の維持」のためにオールカントリー型のインデックスファンドを積み立てで投資しているが、一方では自分自身でアクティブな運用もやりたいので、個別株式への長期投資も続けている。自分が興味を持ったことだけではなく、常に新しいことに対して知的好奇心を持ち続けることは、認知症予防にも役立つと思っているからだ。

 世の中の動きにちょっとした関心を持つことによって、株式投資のヒントになることは案外身の回りにたくさんある。

 例えば2020年の3月頃は新型コロナウィルスが蔓延し始めた頃で、多くの人は外出を控えていた。ところがふと、家の近くにあった「業務スーパー」に行ってみると駐車場は満杯で、店の中は大変な数の人で大混雑している。世の中の人出がなくなり静まりかえっている時なので、驚いた。見てみると確かに価格は安い。

 後で色々調べてみて、なぜ安いのか理由も分かったのだが、その時は素直に「これは面白い」と思ったので、後で業務スーパーを運営する神戸物産の業務内容を調べてみたが確かに業績は好調である。

 当時の株価は1800円(分割調整後)ぐらいであったが、その後4600円ぐらいまで上昇し、現在は3800円ぐらいとなっている。つまり自分の身近な変化に対して興味を持つことで、素直に感心した製品やサービスを提供する企業に投資をするというのも面白いのである。