写真:神戸酒心館の外観日本酒「福寿」で知られる酒造メーカー・神戸酒心館の外観 提供:神戸酒心館

老舗酒造メーカーが「世界初のカーボンゼロ日本酒」を発売した。その背景には、きれいごと抜きの危機感と、生き残りを懸けた経営判断があった。何が彼らをそこまで突き動かしたのか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

日本酒「福寿」の酒蔵が
カーボンゼロ日本酒を発売

 昨年10月、日本酒「福寿」で知られる酒造メーカー・神戸酒心館が「世界初のカーボンゼロ日本酒」を発売した。

 この「福寿 純米酒 エコゼロ」は、製造過程で用いる電力やガスを、再生可能エネルギーやカーボンオフセット(二酸化炭素〈CO2〉の排出分を相殺)された都市ガスにするなどして、二酸化炭素排出量を実質ゼロにしたものだ。

 そう聞くと、「ハイハイ、ESG(環境・社会・企業統治)投資を呼び込むためにもそういうのやらないと株主もうるさいもんね」という感じで、この手の話題に食傷気味の人もいるだろう。あるいは、「どうせ話題づくりの一環でしょ? “地球に優しい”ってうたうと買う自然志向の人もいるから」と意地悪な見方をする人もいるかもしれない。

 ただ、そのような投資や宣伝目的でSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むことができるのは、実はほんの一部の大企業に限った話で、この神戸酒心館には当てはまらない。同社は1751年創業の老舗企業ではあるが、従業員数は49人という「中小企業」だからだ。