「2022年版中小企業白書」に掲載されている21年10月の調査データによれば、中小企業でSDGsに取り組んでいるのはわずか24%にすぎない。これは当然で、まず多くが上場していないので、株主から「SDGsを推進せよ」というプレッシャーにさらされないということがある。そこに加えて、そんな余計な設備投資をする経済的余裕がないという事情もある。
また、日本では「カーボンゼロ」をうたえば商品が飛ぶように売れるというわけでもないので投資も回収できない恐れがある。巨大資本を持つ大手酒造メーカーが「カーボンゼロ日本酒」に手を出していないのが、その証左だ。
では、こんなシビアな現実がある中で、なぜ中小企業である神戸酒心館は、「福寿 純米酒 エコゼロ」の開発に踏み切ったのか。
神戸酒心館13代目当主が明かす
「危機感」の正体とは?
「一言で言えば、今ここで何もしなければ、これまでと同じ品質のお酒が造れなくなってしまうだろうという危機感からです」
そのように語るのは、神戸酒心館の代表取締役社長で13代目当主の安福武之助氏だ。同社がある神戸・灘地域は古くから酒造りが盛んだが、それはこの地域の「自然の恩恵」という「強み」があるからだ。
まず、酒造りに欠かせない水に関しては、六甲山の伏流水である「宮水」が用いられるのだが、これは酵母の栄養素であるリンやカリウムのミネラル分が豊富に含まれている。そして酒の原料である米に関しても、酒米の王様と呼ばれる「山田錦」の産地で、全国生産量の8割を占めている。つまり、神戸酒心館をはじめとした灘の酒造メーカーは、酒造りに適した水と原料が近隣で安定的に調達できるという唯一無二の「強み」があるのだ。
しかし今、それが揺らぎつつあるという。