そんなブランド訴求で重要になってくるのが「アワード」だ。権威のあるコンテストで高く評価されると、各国の輸入業者から声がかかって注文も増えていく。そんな“成功モデル”を神戸酒心館は身をもって体験している。

 実は「福寿」はフランスやドイツで行われる酒の展示会に出品し、数々の賞を受賞。その結果、「福寿 純米吟醸」は08年以降、何度もノーベル賞公式行事の提供酒に選ばれており、ブランド認知向上につながっているのだ。

「ヨーロッパで行われるワインの品評会などでは、環境へのコミットメントやサステナブルの品質を競い合うアワードが多く行われているなど非常に関心が高い。『福寿 純米酒 エコゼロ』を発売した際には、国内よりも海外、特にヨーロッパのメディアで多く紹介されました」(安福社長)

 これを受けて、海外の取引先である各国のインポーターからも多くの問い合わせがあったという。発売してからまだ4カ月足らずで、飛ぶように売れているわけではないが、「世界の反応」には手応えを感じているという。

 これまで日本で「カーボンニュートラルの取り組み」と聞くと、巨大資本の大企業が「社会的責任」や「大量生産・大量消費の免罪符」として、あるいは「ESG投資」の観点から力を入れている印象が拭えなかった。だから、中小企業の多くは自分たちとは無縁の世界の話だと思っていた。

 しかし、日本酒の場合は、大手酒造メーカーが動く前に先んじて、神戸酒心館のような中小企業が動いている。しかも、その理由は「自分たちが生き残るため」だ。この逆転現象は、非常に興味深い。

カーボンゼロ日本酒の実現
背景に「10年の計」あり

 ただ、そこで一つ疑問がある。多くの中小企業が敬遠していることからも分かるように、SDGsを本気で推進しようとすればコストがかかる。しかも、神戸酒心館のような酒蔵の場合、酒米を蒸す(蒸米)や、酒を熱殺菌する工程や、出来上がった酒を瓶に詰める際に瓶を洗う時にも多くのエネルギーを必要とする。

写真:蒸米の様子「蒸米」の様子 写真提供:神戸酒心館

 いくら「生き残るため」とはいえ、中小製造業がこれだけ多くの工程を「カーボンゼロ」とするにはかなりの苦労があったのではないか。