ビジネスの世界では「話し方」一つで大成功を手にすることもあれば、大損失を被ることもあります。ただし、口がうまいからと言って仕事ができるわけではなく、むしろ口下手の方が結果を出すケースも少なくありません。ビジネスで求められる実践的「話し方」とは?この特集ではあなたの「話し方」を劇的にアップデートする書籍を厳選しました。今回は『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』から、世界的な大ベストセラー『ハリー・ポッター』シリーズの作者が実践した「つかみはOK!」なスピーチの奥義とは?をお届けします。(ダイヤモンド社デジタル編成部副部長 大堀達也)

あなたの「話し方」が変わる! スピーチの教科書Photo:PIXTA

“つかみ”に失敗すると誰も振り向かない?
何事も「最初が肝心」な理由

「文章の“つかみ(冒頭部分)”が分かりにくいと、読んでもらえないぞ!」――。私がまだ駆け出しの雑誌編集者だった頃、編集長がよく口にしていた言葉です。

 雑誌や新聞などのテキストメディアでは、つかみは極めて大事です。ニュース記事なら文章の書き出しやリード(導入文)で、読者に一番伝えたいファクト(事実)やテーマを明確に示すことが“定石”といえます。

 つかみが分かりにくいと、記事の要点がスッと頭に入ってこないので、読んでいてストレスが溜まります。読者の興味を引く文章の“不文律”を知らなかった私に、先輩たちは「肝心のファクトは最初に書け!」などとダメ出ししては、余計な文章をバッサリ削ってくれたのでした。

 編集経験を積んだ今でも、つかみをどうするかアレコレ考えることは、面白い半面、骨が折れる仕事です。実際、編集者が原稿整理で最も労力を割いているポイントの一つが、読者を引き付ける鍵となるオープニングの組み立てなのです。

 どこかのお笑い芸人ではないですが、「つかみはOK!」な記事を常につくることができるようになれば、もはや“編集の達人”といっていいでしょう。

聴衆と心を通い合わせる!
スピーチ名人たちの見事な“つかみ”

 つかみが大事なのは、記事や漫才だけではありません。キャリアアップを目指す全てのビジネスパーソンにとって、いまや必須のスキルとなった「スピーチ」にも当てはまります。オープニングで聴衆を引き込むことができれば、スピーチが成功する確率はぐんと高まります。

“スピーチ上手”になりたい会社員にお勧めしたい本、『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』では、著者の佐々木繁範氏がスピーチにおけるオープニングの重要性について詳しく解説しています。

 まず、オープニングの目的として佐々木氏は次の三つを挙げます。

(1)聴衆の関心をつかむ
 聴衆をハッとさせて注意を引き付け、「聞こう」という気を起させる。
(2)聴衆と心を通い合わせる
 聴衆の心だけでなく話し手自身の緊張をほぐし、聴衆と一体感を築く。
(3)テーマとロードマップを示す
 テーマやおおよその構成について述べ、聴衆に心の準備をしてもらうことで、長時間でも集中力を途切れさせない。

 このうち(1)や(3)は、私が若い頃に先輩たちから叩き込まれた、読者を引き付ける“定石”に通じます。

 さらに佐々木氏はスピーチの達人といわれる著名な人たちの実例を挙げながら、優れたオープニングとは何かを説明します。その一つが、世界的な大ベストセラー『ハリー・ポッター』シリーズの著者、J・K・ローリングが2008年にハーバード大で行った卒業祝賀スピーチです。「正統派のスピーチ」と佐々木氏が評価するローリングのオープニングは、確かによく練られています。

 ローリングはまず、次のような感謝の言葉から始めました。「ハーバード大の祝賀スピーチという栄誉ある機会をいただいたばかりに、ここ数週間、不安と緊張にさいなまれ体重を減らすことができました。まさに一石二鳥ですね」――。貴重な機会を得たことに加え、そのプレッシャーで思いかけず減量が成功したことにも感謝するという、自分をネタにしたジョークで笑いを取り、どっと会場を沸かせたといいます。

 続けてローリングは、自身が大学を卒業してからの21年間で学んだ「失敗の恩恵」「想像力の重要性」の二つについて語りたいと述べ、スピーチのロードマップを示してオープニングを締めくくりました。こうして、感謝の言葉・個人的なネタ・ロードマップを、ウィットに富んだ話にまとめ上げたローリングは、オープニングで見事に聴衆と心を通い合わせることに成功した、と佐々木氏は指摘します。

『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』の本文では、ローリングのほかアップル創業者スティーブ・ジョブズやブータン国王など、“スピーチ名人”たちの事例を紹介しながら、オープニングの奥義を伝授します。皆さんもぜひ、「つかみはOK!」なスピーチを極めてみてください。

『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』の本文はこちら

『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』書影

目次/プロローグ/part1 スピーチの核をつくる 1章 相手を知る ─どんな場で、聴衆は何を期待しているか
 
part1 スピーチの核をつくる 2章 メッセージを絞る ─最も伝えたいことを明確にする

part2 話を効果的に組み立てる 3章 全体構成とボディ ─伝わりやすい構造、順番を考える
 
part2 話を効果的に組み立てる 4章 オープニング ─導入部で聴衆の注意を引きつける

part2 話を効果的に組み立てる 5章 クロージング ─記憶に残る終わりかた
 
part3 原稿づくり、リハーサル、そして本番! 6章 リハーサル ─原稿づくりから前日の準備まで

part3 原稿づくり、リハーサル、そして本番! 7章 デリバリー ─壇上での立ち振る舞いから質疑応答まで/エピローグ 

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