一連のカリキュラムを修了した上で、筆記および口頭試験、指導実践、研修リポートの全てで合格した後に技術委員会にて審査。さらに理事会の承認を経てS級取得が認定される。所属する組織や団体の理解だけでなく、100万円単位の費用も工面する必要も出てくる。
ライセンスがなくても監督にすべきだ!
W杯3度出場の実績・本田圭佑の主張
一方で日本代表としてW杯に3度出場した本田圭佑はライセンスを取得しようとしない。現行制度を残しつつ、ライセンスがなくてもプロの監督になれるようにすべきだと、以前から持論を展開している。
プロライセンスは必須ではなく任意にすべきだ、という主張はスター選手が引退直後に即、監督に就くケースが少なくないプロ野球に通じるものがある。ファンによる賛否両論が飛び交うなかで、本田は最近になっても自身のツイッター(@kskgroup2017)を更新。次のようにつぶやいている。
「プロ指導者ライセンス。必要ないと言ったら『選手とは違うから勉強は必要』と言ってくる人。勉強してないと勝手に決めつけんといて」(原文ママ)
本田に限らず、S級を取得するまでに決して少なくない時間を要する現行の制度は議論の対象になってきた。代表経験者らいわゆるスター選手に設けられた優遇措置に対してもしかりだ。
それでも、37歳で当時J2だったアルビレックス新潟の監督に就任。北京五輪代表監督を経て湘南ベルマーレ、松本山雅FCでも指揮を執った反町技術委員長は、JFAの公式HP上で随時掲載している自身のコラムの21年12月分で、ライセンスを取得する意義を次のように説いている。
「ライセンスを取ることは、指導者として最低限のことを身につけてスタートラインに立つことを意味する。勝負はあくまでも取った後で、そこから先はクリエイティブに自分なりの監督像をつくり上げていくしかない。やること、なすこと、全部うまくいったなんて監督は一人もいない」
スポーツ界で長く言い伝えられてきた格言に「名選手必ずしも名監督ならず」がある。反町技術委員長はコラムのなかで、選手としての実績と指導力は関係ない、という指摘に理解を示しながら、一方で「しかし『名選手にして名監督』という例も実はいくらでもある」ともつづっている。
現役時代はサッカー界に「ボランチ」という言葉を浸透させ、サンフレッチェ広島の監督としてJ1を3度制覇。現在は日本代表を率いる森保一監督は、その一人と言っていいだろう。
日本代表として37試合に出場した実績を持つ森保監督は、ベガルタ仙台でプレーした03年シーズンをもって現役を引退。古巣の広島でコーチを務めていた翌04年にS級ライセンスを取得した。当時は前述したB級からS級への飛び級での受講がまだ認められていた。
段階を踏んだライセンス取得が求められる現行制度で、ある程度の時間や労力を割く必要性と、代表やJリーグで活躍した選手たちの経験や知見を、できるだけ早く指導者として還元する道も用意する必要性。両方のバランスが取られた結果として、S級取得までのロードマップも変わってきた。
例えば槙野氏は、順調に進めば現役引退から2年でS級を取得できる。先月下旬に都内で行われたJリーグのイベントに憲剛氏、内田氏とともに参加した槙野氏は1月をもってB級を取得し、A級取得へ向けて5月から合宿に参加すると明言。その上で次のように続けた。
「ここにいられる中村憲剛さんや内田篤人さんにも、日頃からいろいろと話をうかがっています。どのようなプログラムがいいのか。より早くS級を取れるように動いていきたい」