「マジヤバイっす」若者の男性が「っす」を使う、意外に深い背景とは写真はイメージです Photo:PIXTA

「○○っす」という言葉遣いは若者、特に若い男性を中心によく聞く。彼らが「○○っす」を使う理由とは。本稿は、中村桃子著『新敬語「マジヤバイっす」―社会言語学の視点から』(白澤社)の一部を抜粋・編集したものです。

「です・ます」の短縮形の「ス」
相手との距離感も縮める

 文部省は1996年、国語審議会報告書で、現代の敬語について、以下の4つの特徴をあげている。

(1)表現形式の簡素化
(2)親疎関係の重視
(3)聞き手への配慮が中心
(4)場面に応じた対人関係調整のための敬語

 興味深いのは、どれも敬語の使い方そのものというよりも、敬語の使い方に対する意識(「言語イデオロギー」)の変化を示している点である。

 このように敬語意識が変化している状況では、同じ発話でも異なって受け取られる可能性がある。たとえば、対者敬語のひとつである「です」の使い方に関しても、話し手は目上の人に「です」を使うことによって、上下関係に基づく敬意を表しているつもりでも、聞き手が上下関係よりも親疎関係を重視すれば、「です」は相手との距離感をもたらしてしまう。

 敬語が相手との距離を作るという認識があるのならば、当然、対者敬語のひとつである「です」も、場合によっては、相手との距離感を表現しかねない。私は、この状況が、「ス」が使われるようになった一因ではないかと考えている。親疎関係が敬語表現の中心になりつつある現状では、「です」を使い続けることは「あなたと親しくなる気はない」という意味も伝えかねない。そこで「です」の遠い距離感を縮める方法のひとつとして、「です」を「ス」と縮めたのではないか。

 もうひとつ、「ス体」(※「○○っす」のような言葉遣いの著者による総称)が使われるようになった背景に、日本語では親しい丁寧さを表現することが難しいという事実がある。「ス体」は、「です・ます」の〈丁寧さ〉を受け継ぎながら、「です・ます」だと遠すぎる相手との距離を少し短くする、つまり、〈親しさ〉も同時に表現する。「ス体」の主要な働きの一つは〈親しい丁寧さ〉を表現することだと言える。

若い女性が「ス体」を使わないのは
男性集団の階層性のため

 ここまで、敬語が上下関係から親疎関係の表現として使われるようになったことや、日本語では親しい丁寧さを表現しにくいことを「ス体」が発生した背景としてみてきた。しかし、これだけでは「ス体」が圧倒的に若い男性に使われていることの説明ができない。

 私は、男子大学生の会話を記録したのと全く同じ時期(2016年)に、同じ大学の体育会系クラブに所属している女子大学生3人(先輩1人、後輩2人)の会話も録画したが、30分間で「ス」の使用は皆無であった。

 そこで、「ス体」が使われるようになった背景として3つ目に考えられるのが、男性集団の階層性である。