“稲盛和夫の金言”でオンボロ床屋が目覚めた!「成果報酬が諸悪の根源」写真はイメージです Photo:PIXTA

「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の代表的な経営手法である「アメーバ経営」において、成果報酬は望ましいものとされていない。こうした稲盛流経営を実践し、ボロボロの状態から経営をV字回復させた理容店チェーンがある。その会社は、業界では一般的な「完全歩合給制=成果報酬」を採らず、固定給制を導入しているという。(イトモス研究所所長 小倉健一)

アメーバ経営とフィロソフィが
「稲盛経営の両輪」である理由

 中央経済社が発行する月刊誌「企業会計」の2023年2月号の特集『稲盛和夫を継ぐもの』は、稲盛哲学を経営に生かす企業経営者、会計の専門家、そして、稲盛経営を研究する大学の研究者が寄稿していて、非常に読み応えのある特集になっている。

 中でも興味深かったのが、鹿児島大学で稲盛アカデミー講師を務める劉美玲氏の寄稿だ。劉氏が稲盛哲学と出合ったのは、11年10月に参加した中国大連で開催された盛和塾(稲盛氏が主催した経営塾)の開塾式だった。以来、稲盛経営を学びたい中国経営者研修団、稲盛哲学の研究者との通訳をすることになった。

 同寄稿によると、多くの中国人経営者の関心事項は、アメーバ経営(稲盛氏が発案した経営方式で、会社を小さな集団に小分けし、その集団ごとに採算制度を導入する)における報酬制度だったという。

 稲盛氏の考案したアメーバ経営においては、成果に連動する歩合制はあまり望ましいものとされていない。

 なぜなら、アメーバと呼ばれる経営方法は、社内をたくさんの少人数のグループで分割し、それぞれのグループで独立採算を目指すものだからだ。それぞれのグループがネジ1本に至るまで知恵を絞ってコストカットと売り上げの増加を目指し、採算性を高めていくことで全体最適をしていく。

 そのため、自己中心的なグループがあると、そのグループだけは大幅な黒字だが、隣の部署はその分赤字などという事態が発生しかねない。すると、全体としてプラスになっていないということが起きてしまう。

 それを補うために必要なことが、フィロソフィ(稲盛哲学)の共有である。小グループの一つ一つが、社員一人一人が、会社全体の成長を肝に銘じる中で、自分の所属する小グループの収益を高めることが求められるのだ。

 フィロソフィとアメーバが、稲盛経営の両輪と呼ばれているのはそのためだ。フィロソフィだけでは空理空論であり、良い行いをするというだけでは、過酷な競争社会に生き残ることはできない。しかし、アメーバ経営だけでも組織がボロボロになるだけで、中長期的成長は見込めないということだ。

 中国において、稲盛経営が大きな評判を呼んでいて、多くの中国人経営者がアメーバ経営を自社に取り込もうとしている。ところが、その中でネックとなるのが、中国企業では標準的な給与モデルとなっている「成果主義型報酬」の扱いだ。

 実際、前出の劉氏がデータに基づいて分析をしたところ、アメーバ経営と成果主義型報酬の相性の悪さを示唆する結果が得られたという。その詳細な内容をお伝えするとともに、稲盛流経営と「脱成果報酬」を組み合わせてボロボロの状態から経営をV字回復させた理美容店チェーンの事例をご紹介したい。