選ばれるクスリ#5

大正製薬は大衆薬を扱う自動販売機のラインアップに新型コロナウイルス検査キットを加えることを要望している。取り扱い範囲を広げる動きに、厚生労働省、薬剤師団体、薬局、ドラッグストアはどう反応したのか。賛成派、反対派は意外な形で分かれた。特集『選ばれるクスリ』(全36回)の#5では、大衆薬を巡り錯綜する利害関係者たちの思惑を詳らかにする。(医薬経済社 玉田慎二)

自販機販売を第1類薬まで拡大へ
「コロナ検査キット」追加を要望

 大正製薬が業界の「規制」に抗戦している。昨夏、大衆薬の自動販売機販売を実証実験し、安全性の懸念を払拭。そこで第2弾として、新型コロナウイルス検査キットで、制限なしの“広範囲”による販売を模索している。業界組織それぞれの思惑や反発、抵抗が水面下で錯綜する中、生活者にとってメリットとなる新サービスはどこまで実現するのか――。

 医師からの処方箋なしに薬局やドラッグストアで買える大衆薬は、医療用医薬品からスイッチされた「直後」の要指導医薬品を筆頭に、安全性の度合いに応じて第1類医薬品、第2類医薬品、第3類医薬品に類型されている。要指導薬と第1類薬は原則、薬剤師が対面で販売し、第2類薬と第3類薬は登録販売者でも可能だ。また、要指導薬以外はインターネットでも購入できる。

 昨年の5月から8月までの間、大正製薬がJR新宿駅構内で実施した実証実験は、第2・第3類薬など約30品目。自社ブランドの風邪薬「パブロン」や鎮痛薬「ナロン」、鼻炎薬「クラリチン」などをそろえた。

 駅構内のドラッグストア近くに、IoT(インターネットをモノにも接続する技術)化した、通常の自販機よりも進化させた「クスリの販売機」を設置し、勤務する薬剤師や登録販売者が10メートルほど離れた店舗から、端末で消費者が求める大衆薬の販売可否を遠隔確認し、販売した。

 実証実験を終えた大正製薬は「安全性に問題はない」といった結果を厚生労働省に報告。そして、第2弾として10メートル付近までの店舗からという「距離制限」の緩和・撤廃や、第1類薬であるコロナ検査キットの販売を要望したのだった。

 対して厚労省は、コロナ検査キットの販売には「容認」する姿勢を示したものの、距離制限の撤廃に関しては「絶対反対」と答え、退けたもようだ。

 第2・第3類薬にとどめていた自販機販売を第1類薬にまで拡大するという方向性は、すでにネット販売で認められている以上、容認は不思議ではない。逆に、距離制限のないネット販売を認可しながら、IoT化した自販機には距離制限を課すというのは、理論的に無理がある。もっとも、厚労省の心配は、別にあるようだ。

 薬局・ドラッグストア業界においては、賛成派と反対派で真っ二つに割れている。

 次ページでは、賛成派と反対派で真っ二つに割れるに至った業界事情に迫る。そして厚労省が何を恐れているのかを明らかにする。