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がん検診の見落としが全国で相次いでいる。一昨年には、東京都杉並区でも肺がんの見落としが発覚。ほぼ世界に例を見ない胸部X線頼みという日本の肺がん検診の根底が揺らいでいる。特集『健康診断のホント』(全18回)の#5では、世界の潮流から取り残された肺がん検診をはじめとした、自治体がん検診のガラパゴス化の実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
東京・杉並では胃がん検診でも問題発覚
肺がん検診“ガラパゴス”の実態
2018年6月、東京都杉並区で肺がん検診を受診した40代の女性ががんを見落とされ、命を落とした。

女性は14、15年と18年の計3回にわたり、健診のため同区の河北健診クリニックで胸部X線検査を受けたが、いずれも「異常なし」と診断された。ところが、体の異常から河北総合病院を受診したところ、肺がんの陰影を見落としていたことが発覚した。
さらには、同クリニックで検査を受けた9424人の画像を再調査した結果、新たに44人が要精密検査に、うち2人はがんと判明する事態になった。
同クリニックの読影医が、がんをニップル(乳頭)と見誤ったことに、医師たちは「あり得ないミスだ」と口をそろえてあきれる。
その一方で、同区の田中良区長は昨年1月、自治体が依拠してきた国が推奨する肺がん検診の手法に矛先を向け、“事件”に国を巻き込んだ。06年の肺がん検診のガイドラインで、胸部X線が推奨された科学的根拠を改めて問う質問状を厚生労働省に提出したのだ。
その根拠となったのが、同クリニックを運営する河北医療財団が原因究明のために立ち上げた外部有識者による特別調査委員会の「調査報告書」だ。