また、EとSについても、それがどのように企業価値向上につながるのか、トップの口から語られることの意味は大きい。大企業とは異なり、すべてをきれいに開示することが難しい企業であれば、「いまできること」から段階的に開示することもトップでなければ決断できない。
対話後に、ネクストステップとして何を実施し、何はやらないかも、トップがその場で判断できる。エンゲージメントが行動につながっていく好循環が、自然に生み出される。
【心得3】非財務情報=「未」財務情報を可視化する
非財務情報は、多くの場合可視化されていない。例えば統合報告書の価値創造モデルにおいて、「人的資本」項目に従業員の人数を記載するだけ、という企業は多い。
非財務資本は自社のビジネスモデルに投入することで、未来の財務資本に転化する。謙遜や控えめな態度は日本の美徳かもしれないが、密かに隠し持った技術やノウハウを誇るような内向きの姿勢をやめて、非財務情報を思い切って可視化することが必要だ。可視化というと難しいことのように見えるかもしれないが、目指すべきは【心得2】にあるようにトップ自らが語れる水準だ。
対応難易度が各段に上がる
共同エンゲージメント時代に備えよ
これから、日本のエンゲージメントに大きな変革が訪れる可能性がある。「共同エンゲージメント」の導入が検討されているのだ。共同エンゲージメントは投資家同士が一緒になって会社に対して企業向けの提案を行うことで、欧米では一般的な考え方だ。
日本版コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードは、英国のモデルをそのまま導入した経緯があるが、英国版スチュワードシップ・コードにある共同エンゲージメントについては、玉虫色の記述のままで導入されていない。
今後のコード改訂次第だが、導入されるとなれば、企業の対応難易度は格段に上がることが予想される。エンゲージメント経験の少ない企業はなおさらだ。
経験不足を認識されている企業ご担当者は、ぜひ3つの心得を傍らに置いていただき、新時代到来に備えるために、エンゲージメント武者修行の旅に出発していただければ幸いだ。
(フロンティア・マネジメント マネージング・ディレクター 本橋陽介)