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飛騨山脈北部の白馬山に魅入られ、縁もゆかりもない長野のスキー場運営会社に入社した男がいた。白馬岩岳マウンテンリゾート代表の和田寛は、冬だけに頼らない「オールシーズン・マウンテンリゾート」を目指し、革新的なアイデアを次々と投入。2022年にはグリーンシーズン(初夏~秋)の来場者数で約20万人を達成し、取り組み開始前の16年と比べて8倍まで増えた。仲間と共に、市場縮小の続くスキー場を「夏に稼ぐ」場に変貌させた経営者の頭の中はどうなっているのか、和田寛著『スキー場は夏に儲けろ! 誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則』(東洋経済新報社)より編集部が一部抜粋して紹介する。
自社のビジネスを
どう定義づけるか
「私たち白馬岩岳は何のビジネスを行っていて、どのような価値をお客さんに提供していると思いますか?」
2016年、ある秋の日の夜。白馬岩岳山頂にバーベキューコンロと大量のアルコールを運び上げ、作戦会議が始まりました。メンバーは「現場監督」ケンジさん、「スーパー営業マン」サトルさん、「超絶スキーヤー」コージ、そして私です。
お隣の小谷村名物、辛いホルモンを焼きながら、開けたばかりの缶ビールを片手に、私が3人に尋ねたのが冒頭の質問でした。このとき、3人が3人とも、きょとんとした顔をしたのが思い出されます。
「スキー場ですよ。スキー場ビジネスをやっているに決まっているじゃないですか」
じゃあ競合は誰?みんなの答えは「白馬五竜」「志賀高原」「野沢温泉」……国内、しかも同じ長野県内のスキー場の名前しか出てきません。でも、本当にそうなのでしょうか?
「そもそも自社のビジネスは何なのか」
「自社の活動を通じて顧客にどんな価値を提供するのか」
戦略を考えるうえでの大前提は、自社のビジネスをどう定義づけるかです。これを間違うと、大きな戦略ミスに直結します。
ビジネスの定義を間違った例で有名なのは、デジタルカメラが普及する前、銀塩フィルムの業界で全世界ナンバー1のシェアを誇っていた米イーストマン・コダック社でしょう。
デジタルカメラを最初に開発したのはイーストマン・コダックとも言われています。しかし同社は、自社のビジネスを「映像を残すための化学フィルムを顧客に提供する会社」と定義し、それ以外のビジネスに注力しきれませんでした。そのため、世の中のデジタル化から取り残される形で、結局は2012年に倒産してしまいました。
対照的な会社が、フィルムの世界ではコダックの後塵を拝していた富士フイルムです。同社は自社のビジネスを「顧客が大事な瞬間を映像として残すためのツールを提供するビジネス」「顧客が求める化学製品を提供するビジネス」として再定義しました。
その結果、デジタルカメラや液晶テレビのフィルム、ヘルスケアなどの事業を積極的に展開し、さまざまな分野で世界的なプレゼンスを維持することに成功しています。
そのほかにも「インスタントカメラ・ビジネス」に固執したポラロイド社(2001年経営破たん)や、ネット通販が急速に拡大する中で「リアル店舗でのおもちゃ小売ビジネス」から脱却しきれなかった米トイザらス(2017年経営破たん)などの例があります。
時代が変化する中でビジネスの定義を誤り、それを前提に戦略を組み上げたことによって破滅的な結果を迎えた企業の例は、枚挙にいとまがありません。
ビジネスを正しく定義できるか、環境の変化に応じて正しく再定義することができるかは、その企業の生死を分ける重要なポイントだと言えるでしょう。
スキー場であっても
「スキー場ビジネス」ではない
では、私たち白馬岩岳のビジネスの定義は何か。コダックの話をしながら、ようやっと火が通ってきたホルモンを口にしつつ、議論は進みます。
過去30年間で市場が3分の1になり、これから人口減少にともなってさらに市場が小さくなることが見えている国内スキー場ビジネス。これまでと同じ土俵で、同じような相手と組み合っていても、気づいたら誰もその相撲を見てくれなくなるのではないか。
私たちが持っている資産はスキー場としてのリフトやゲレンデだけではなく、ほかにもっと活用できるものがあるのではないか。
こうした思いから話し合って出てきた結論が、「私たちはスキー場ビジネスをやっているわけではない」ということでした。
私たちがいる土俵は「レジャー産業」です。もう少し具体的な言葉で言うと、次のようになります。
「半日程度以上の時間を国内外のお客さんに使ってもらい、目に見える製品や商品をお渡しすることなく、満足感や爽快感を覚えてリフレッシュした状態で、もとの生活に戻ってもらうビジネス」
そう考えれば、競合は県内スキー場だけではありません。同じスキー場でもニセコや蔵王など、北海道や東北にあるスキー場も明確に含まれます。さらには北アメリカやヨーロッパのスキー場も明確な競合としてとらえなければいけません。
そしてもちろん、スキー場だけではなく、遊園地やキャンプ場、ゴルフ場、映画館、動物園や水族館といった施設も競合です。京都、沖縄などの観光地もライバルととらえる必要があるでしょう。
有形な施設を持つものだけではなく、ゲームやスマホ、インターネットなどですら、考えようによってはお客さんの時間と財布を取り合う競合だということになります。
「隠れた資産」を見つけ出し
徹底的に磨く
では、レジャー産業として、私たちにできることは何か。これまでの「スキー場」という固定観念を取っ払うことで、新たにできるようになることがあるのではないか。
それを考えるうえでのキーワードが、「隠れた資産を見つけ出し、徹底的に活用すること」でした。この山頂での作戦会議から現在にいたるまでずっと、私たちは「馬鹿の一つ覚え」で、ひたすらこのことを考え続けています。
「隠れた資産」とは、簡単に言えば、「磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっているもの」です。
すでにそこに存在しているものを活用するので、ゼロベースで何かをつくるよりもコストも時間も少なくてすみます。お客さんから見ても「なぜそこでそのビジネスをやるのか」が伝わりやすくなります。
ですから、本当にポテンシャルのある「隠れた資産」を目利きすることができれば、成功確率は格段に高まります。
この「隠れた資産の発見と活用」が、経営を考えるうえでの重要なテーマになります。そこで、そもそもこの「隠れた資産」とはどういったものか、少し詳しく私の考えを説明させてください。
「隠れた資産」には、大きく3つのカテゴリが存在します。
(1)モノ
土地や建物、機械などの物理的な資産や、その土地固有の景色などのうち、現在その価値をフルにお客さんに提供できていないものです。
観光業界で「隠れた資産」を活用し、人気を博したことで有名になった例に、長野県阿智村の星空ビジネスがあります。阿智村はもともと、環境省による全国星空継続観察で「星がもっとも輝いて見える場所」第1位に認定されていました。しかし2010年くらいまでは昼神温泉やスキー場といった既存の観光施設に頼った集客しかできておらず、徐々に来訪者数も減少していたと聞きます。
そうした中、ヘブンスそのはらSNOW WORLD運営会社の社長であり、阿智昼神観光局の社長を兼務されている白澤裕次さんたちが、星空を売りにしたツアーを2012年に開始。「きれいな星空」という、もともとあった(が、活用されていなかった)コンテンツに着目し、徹底的に磨き上げました。
タクシーの車内に液晶ディスプレイを設置し、CMを流すことで広告収入を得るタクシーエムも、「隠れた資産」を活用した好例です。これまで誰も活用しなかった「タクシーの座席の背面」を、見事にマネタイズしました。
「隠れた資産」とは、このように「多くの人が気づいていなかったが、手を加えたり、経営上のアテンションを当てたりすることで、急に輝きを増す資産」のことです。
こういう資産は、実はどこの会社にも、どの地域にも眠っているものです。







