大統領就任式に『聖書』が登場する

増田 アメリカは政教分離の立場をとっていますが、さまざまな場面でキリスト教の国なんだなと感じることがありますよね。たとえばアメリカの大統領就任式では、大統領は『聖書』に手を置いて宣誓します。

池上 現職のバイデン大統領は、カトリック教徒ですが、アメリカの歴代の大統領はプロテスタントでした。はじめてのカトリック教徒はジョン・F・ケネディで、バイデン大統領が2人目のカトリック教徒です。

 イギリスの章でも触れたように、アメリカは、イギリスからプロテスタントの一派であるピューリタンの人たちがやってきて建国したという歴史的背景もあり、いまでもプロテスタントが多く、そのなかでも福音派が半数近くを占めます。福音派とは、『聖書』とは「神の霊感」によって書かれたもので、その内容は一字一句すべて誤りのない神の言葉であると信じている人たちのことを指します。

増田 最近のアメリカの政治では、福音派が大きな影響力を持つようになってきましたよね。

池上 福音派は、保守的な白人に多く、中南米や中東からの移民の増大で、自らが少数派に転落しつつあることに危機感を募らせていると言われています。中南米はカトリックですし、中東はイスラムです。「アメリカは白人のプロテスタントが建国した」という思いが強い人たちは、自分たちの「あるべき」姿を政治において維持しようとしているのですね。

書影『歴史と宗教がわかる!世界の歩き方』『歴史と宗教がわかる!世界の歩き方』(ポプラ新書)
池上 彰,増田ユリヤ 著

増田 今回の取材では、ニューヨーク、ペンシルベニア、フロリダ、カンザス、テキサスと行きましたが、本当にアメリカは広くて、さまざまな考え方の人がいて、いろいろな人種がいるんだなというのをあらためて実感しました。それをまとめるのは、本当に大変だろうなと思います。

池上 でも、その多様性がアメリカの強みでもあるんですよね。いろいろ問題もあるけれど、アメリカがなぜこんなに活力があるかというと、本当に多様だからです。さまざまな移民や優秀な人材を受け入れて、今も発展しています。

 アメリカに行くときは、できればニューヨークやカリフォルニアだけでなく、ほかの州にも行って、アメリカの多様さを感じてみてくださいね。