60代従業員を戦力としてあてにできなければ、彼らを雇う人件費が今まで以上に収益を圧迫することになるからです。

 64~65歳までで再雇用も終わる場合、たとえ高い給料(本人は「安い給料になった」と嘆いているとしても)に見合う仕事ができなくても、全体の企業努力で吸収できるかもしれません。しかし、10年も雇用を延長するとなると給与設定に見合った働きが必要です。

 中間管理職まで経験した高齢者に戦力になってもらうためには、より専門性の高いスキルをリスキリングで身に付けてもらったうえで、50代のころの6~7割程度の給料に見合う仕事をしてもらったほうがいいという考えがあります。冒頭に挙げたANAの例では、社会保険労務士や応用情報技術者といった専門的な資格の取得を視野に入れたリスキリングのプログラムを設定しています。

【実体験】40代のリスキリングは
本業に支障が出るほど大変

 ただその際に、50代のリスキリング能力の現実がどのあたりにあるのかということは、一つ大きな壁になりそうです。

「再学習することで新たなスキルを手にして50代、60代はさらに別の活躍をする」

 そのような天国のようなリスキリングの未来が手に入ればいいのですが、全員にというのは難しいかもしれません。

 学習することが好きな人、新しいことを学ぶことが苦にならないという方は年代を問わず一定数いるのですが、一般論でいえば人間は年齢を経るほどに学習を苦痛と感じる人が増えます。リスキリングできないと会社に残れないと言われ、頑張るのだけれどもできない。そしてそれを地獄に感じてしまう。人によってはそんな未来が到来しかねません。

 私個人の体験の話をしますと、42歳のときに思い立ってリスキリングをして米国公認会計士資格に挑戦したことがあります。

 当時、ちょうど会計基準が日本基準からIFRSへと変わる時期だったのと、大企業へのコンプライアンス導入が重要視され始めた時期だったため、監査領域のスキルを学び直すには最適な時期だと考えたのです。

 私の本業は経営戦略コンサルタントなので、米国公認会計士資格は隣接領域で、40歳と年齢もまだ今よりも若いことから、再教育もある程度簡単だと当初は考えていました。最終的には合格したものの、結論から言えば途中の学習は想定以上に大変で、本業に影響が出るほどでした。