「思い込み」が学力に影響するメカニズム
なぜ、数学嫌いという「思い込み」が、その人自身の「学力」に影響するのでしょうか?
そのメカニズムについて考えてみましょう。
先ほどもお伝えしたように、子どもが「自分は数学に向いていない人間だ」と認識してしまうと、その後の成績に悪い影響が出てしまいます。
なぜなら、数学に嫌悪感や恐怖を抱いてしまうと、、数学の問題に取り組むこと自体がストレスになるからです。
そして、ストレスを感じているときは、脳の情動機能を司る「扁桃体」が活性化し、数学の問題に論理的に取り組むための「前頭前野」の働きが阻害されてしまいます。
ですから、数学に関しても、子どもが「自分は数学に向いていない人間だ」と認識してしまうと、その後の成績に悪影響が出てしまうのです。
したがって、「自分は数学ができない」「数学嫌い」と感じてしまうと、それだけで「数学が苦手」になりかねません。
グロースマインドと子どもの成績との関係
こうした、人間の思い込みに関しての研究は、スタンフォード大学の心理学教授であるキャロル・ドゥエック氏が提唱した考え方で、「成長型マインドセット」などと呼ばれます。
彼女の研究成果をまとめた「MINDSET」(邦題:「やればできる!」の研究)は世界的ベストセラーともなり、注目を集めています。
この研究では、この「思い込み」をポジティブな意味で使うこともできると述べられています。
たとえ今は苦手だとしても、「私はいつかきっとできるようになる!」というポジティブな思い込みができれば、本当に学力の向上につながるというのです。
このような、「努力次第で苦手を克服できる」という思い込みのことを「グロースマインド=成長マインド」といいます。
脳はとても柔軟であるとわかっています。
過去には固定的であると考えられた人間の脳の仕組みも、最近の脳科学の進歩により、実は柔軟に変わっていくことがわかっているのです。
でも、「僕はどうせ平凡な人間だから、何をしても一緒だ。」という「フィックスマインド=固定マインド」でいると、何かで失敗した時に自分の知性や能力では対応しきれなかった、自分の限界だったと判断し、成長がそこで止まってしまいます。
グロースマインド(成長マインド)と子どもの成績との関係についての詳細は、『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』でお伝えしています。ぜひご参照ください。
また、ここまで読み進めていただくことで、親の苦手意識 → 子どもの苦手意識 → グロースマインドが育たない → 能力が育たないというフローにより、親の苦手意識が子どもの学力に大きく影響することはご理解いただけたかと思います。
では、具体的にどのようなことに気をつけながら、日々の生活で子どもとコミュニケーションを取っていけばいいのか?
そんな、子どもとの良好なコミュニケーションの取り方については、『スタンフォード式生き抜く力』にて、詳しく触れていますので、こちらもぜひご覧ください。
次回の記事では、「理解力」を育むという視点で、この「アクティブリスニング」を実施するためのより具体的なステップをお伝えします。ぜひ、お見逃しなく!
【参考先】
*1. Eccles, J., & Jacobs, J. (1986). Social forces shape math attitudes and performance. Signs, 11(2), 367–380.
*2. Maloney, E. A., Ramirez, G., Gunderson, E. A., Levine, S. C., & Beilock, S. L. (2015). Intergenerational effects of parents’ math anxiety on children’s math achievement and anxiety. Psychological Science, 0956797615592630.
*3. Sian L. Beilock, Elizabeth A. Gunderson, Gerardo Ramirez, and Susan C. Levi
, (2009). Female Teachers’ Math Anxiety Impacts Girls’ Math Achievement.