首相の岸田文雄が衆院和歌山1区の補欠選挙の応援遊説中に鉄パイプ爆弾の標的になった。4月15日午前11時半ごろだった。和歌山市の雑賀崎(さいかざき)漁港で演説待ちの岸田の頭上に円筒状の物体が落下してきた。岸田に同行した側近は「煙が出ていたので発煙筒かと思ったが、突然爆発した」と当時を振り返る。
誰もが昨年7月の元首相、安倍晋三が参院選挙中に落命した奈良の銃撃事件を思い起こしたに違いない。銃撃事件も午前11時半すぎ、場所も奈良県に接する和歌山県。あまりに状況が重なり合った。
事件後の報道によると、爆発したとみられる円筒の一部は40メートル先に飛んでいたという。岸田を直撃し、聴衆が巻き添えになっていれば大惨事になっていた可能性は否定できない。威力業務妨害の疑いで逮捕された容疑者の木村隆二(24)の手には、2本目の円筒が握られ、手提げかばんの中からは刃渡り13センチメートルのナイフも発見されている。幸い演説会場に来ていた漁業関係者が木村を取り押さえ、事なきを得たが、安倍事件の教訓は生かされていなかった。
事件後、岸田は和歌山県警本部に一時避難した。この日は和歌山に続いて衆院千葉5区の補選の応援にも入る予定が組まれ、その遊説をどうするかの判断を迫られた。自民党本部の選対からはメッセージが届いた。
「次の遊説をどうされるかは総理のご判断ですが、遊説を続ける場合は演説時間を短くし、移動中は車の窓を開けて手を振るのはやめていただきたい」
岸田は即決し、地元鹿児島県入りしていた自民党選対委員長の森山裕に電話を入れている。