「薄氷でも勝ちは勝ち」――。自民党幹部の言葉に実感がこもる。4月23日に投開票された衆参両院の5補選の結果のことだ。首相の岸田文雄が繰り返していた勝敗ラインを越えて「4勝1敗」。数字を見れば上出来といえたが、選挙戦の内実はお寒い限りだった。新聞の見出しにも「辛勝」「各地で接戦」「高揚感なき4勝」などの活字が躍った。
現に投開票日にメディアが実施した出口調査の中には「1勝4敗」のデータもあった。この「1勝」は説明するまでもなく凶弾に斃れた元首相の安倍晋三が議席を得ていた衆院山口4区。ただ、安倍の後継者として当選した吉田真次の得票は5万1961票。安倍が2021年の衆院選で獲得した8万0448票には遠く及ばなかった。
安倍の実弟で体調不良のため議員辞職した岸信夫の山口2区は、岸の長男の信千世が立候補したが楽勝どころか旧民主党政権の元法相、平岡秀夫に追い上げられ、接戦の末の勝利だった。苦戦の原因は曽祖父の岸信介から連なる世襲政治への根強い批判があった。安倍の死から1年もたたないうちに、「安倍王国」が大きく崩れたといってよかった。
一方、「1敗」の衆院和歌山1区は敗因が明確だった。プロ野球の野村克也の語録が頭に浮かぶ。
「負けに不思議の負けなし」
自民党が擁立した元衆院議員の門博文は和歌山1区で敗退を重ねており、議員になれたのは比例代表の復活当選だけ。擁立そのものに無理があった。しかも現職議員当時に女性議員とのスキャンダルを報じられた。それにもかかわらず自民党が門を公認した背景には、和歌山県選出の元自民党幹事長、二階俊博と参院幹事長の世耕弘成との確執があった。