インサイダー IRジャパンの凋落#1Photo:ImageGap/gettyimages

IRジャパンが下方修正の必要性を認識しながら、固執し続けた通期売上高120億円の業績予想。その根拠となる案件名と報酬額が、ダイヤモンド編集部が入手した内部資料で明らかになった。その内容を検証すると、ドラッグストア大手ツルハホールディングスをはじめ有名企業から億円単位の巨額フィーを得る計画など、無謀な「皮算用」が通期見通しの根拠となっていた実態があった。特集『インサイダー IRジャパンの凋落』(全7回)の#1は、その詳細を明らかにする。(フリーライター 村上 力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

インサイダーと業績の開示不正
IRジャパンで浮上する二つの重大疑惑

 アクティビスト(物言う株主)が跋扈し、再編の波が襲う日本の株式市場において、「上場企業の守護神」とまでうたわれたアイ・アールジャパン(以下IRジャパン)の信用が、この1年間で凋落している。

 IRジャパンは、信託銀行名義などで匿名化されている上場企業の真の株主を調査する「実質株主判明調査」に始まり、委任状争奪戦におけるプロキシーアドバイザー(PA)として、アクティビストや買収者に追い詰められた経営陣の「駆け込み寺」としての地位を築きつつあった。

 続々と参入する外国人投資家に対し、未熟な日本の上場企業経営陣。こうした社会情勢と、上方修正を繰り返すIRジャパンに市場の期待感は膨らみ、持ち株会社であるアイ・アールジャパンホールディングス(以下IRJHD)の株価は急上昇。時価総額は昨年のピーク時に3000億円を超えた。株式の50%超を持つ寺下史郎社長は「物言う株主との闘いでビリオネアになった」と称賛された。

 しかし、栄華は長くは続かなかった。

 昨年5月、IRジャパンは2022年3月期の売上高予想について、前期比50%増で過去最高の120円億円と開示。しかし実際の業績は伸び悩み、最終的に84億円と予想に遠く及ばなかった。

 そして今年6月、二つのコンプライアンス違反疑惑が降りかかる。

 一つは、代表取締役副社長だった栗尾拓滋氏のインサイダー取引疑惑だ。6月1日、証券取引等監視委員会がIRジャパン本社などを強制捜査。ダイヤモンド編集部が『【スクープ】株主総会の“参謀役”アイ・アールジャパンに強制調査!「上場規程に抵触」の衝撃証拠を入手』でこの事実をスクープすると、IRジャパンは3日連続のストップ安となり、時価総額は300億円台まで押し下げられた。

 もう一つが、前述の22年3月期売上高が業績予想に到底及ばないことを察知していたにもかかわらず、長期にわたり公表を遅らせた「開示不正疑惑」である。

 ダイヤモンド編集部は、IRジャパンの上層部が昨年12月末、通期の業績見通しを「95億4600万円」と認識していたことを把握。東京証券取引所の上場規程は、業績予想値に一定の乖離が生じることが分かれば、速やかに開示することを求めているが、このルールに反していたと記事で指摘した。

 栗尾氏の容疑は「個人の犯罪」で逃げ切れるかもしれないが、後者は組織の体質や社長の責任に及びかねない不祥事だ。IRジャパンは報道後の6月6日に不正調査委員会を設置し、情報管理や業績予想の問題についての調査報告書を「8月中」に公表するとしていた。

 それから約3カ月たった8月30日。IRジャパンはついに「調査報告書」を開示した。だがその内容は、あぜんとするものであった。

 調査報告書では、IRジャパンの業績予想が「グループ統括戦略会議」で審議され、取締役会で承認するというプロセスがあるとした上で、12月末の「戦略会議」でグループの通期見通しが「9,546M」と記された資料が配布されたことについては認定した。

 問題は事実関係の評価だ。調査委員会は、「グループ統括戦略会議」と「戦略会議」は別物であり、「通期見通し」は、「それ自体が通期の業績予想を意味するものではなかった」というIRジャパンの詭弁を容認。「各会議資料に記載された『見通し』が、当社の業績予想を算出して記載したものであったと認定することはできない」と述べ、業績予想開示の不正を否定したのであった。

 しかも栗尾氏のインサイダー取引疑惑については、栗尾氏が調査委員会のヒアリングを拒否しているとして、詳細は不明のままだ。

 調査委員会が出した提言は、寺下社長の経営責任を不問とし、インサイダー取引については情報管理体制の改善・強化、開示不正疑惑については社内規程及び実務運用の双方の見直しなど、当たり障りのない内容に終始した。

 なぜこれほどまでにIRジャパンに甘い裁定となったのか。ポイントは、調査委員会の3人の委員の一人、遠藤俊英・元金融庁長官である。開示されたプロフィールには記載されていないが、遠藤氏は退官後、瓜生・糸賀法律事務所の顧問となっている。同事務所は調査補助も担っており、調査委への関与が大きい。

 瓜生・糸賀法律事務所は、IRジャパンと関係が深い。同事務所は、昨年5月のセコムによるセコム上信越のTOB(株式公開買い付け)、今年6月のフェローテックホールディングスによる大泉製作所のTOBで法務アドバイザーを務めている。セコムはIRジャパンと関係が深く、大泉製作所においてはIRジャパンが買い付け者側のファイナンシャルアドバイザーとなっていた。大泉製作所のTOBは調査期間中の7月末に成功している。

 また、IRジャパンはデサントのTOBや西松建設の旧村上ファンド対策で伊藤忠商事と組むことが多いが、瓜生・糸賀法律事務所の代表である瓜生健太郎弁護士は、伊藤忠の監査役を務めている。

 利害を共有する弁護士による「お友達調査委員会」により、報告書に手心が加えられている可能性が否定できない。そこで、真に独立した立場にあるダイヤモンド編集部が独自入手した内部資料を基に、調査委員会が書けなかった「開示不正疑惑」の真相に迫っていくこととしよう。