(1)チームの他のメンバーが、自分の発言を拒否したり、罰したりしないと確信できる状態。

(2)メンバー間で、このチーム内では、発言や指摘によって、人間関係の悪化を招かないという安心感が共有されている状態。

 そうした心理的安全性の高い環境なら、みんなが意見や質問を率直に口にでき、それが業務改善策や新しいアイデア、ひいてはイノベーションにつながると提唱したのです。

 この概念が大きな注目を浴びたのは、彼女の発表から17年後の2016年のことでした。IT企業のGoogleが、「生産性が高いチームは、心理的安全性が高い」という研究結果を報告し、世界的な注目を集めるようになったのです。

 Googleでは、2012年から2015年にかけて、成功するチームの必要条件を探る調査を行いました。社内の多数のチームを調査対象とし、より生産性の高い働き方をしているのは、どのようなチームかを調べあげたのです。

町工場を世界的企業へと成長させた「心理的安全性」の力

 約4年間かけたその調査によって、「心理的安全性が生産性に直結する」ことを確かめたのです。そして、心理的安全性が高いことには、次のようなメリットがあったと報告しました。

 まずは、コミュニケーションが活発になることです。すると、情報やノウハウがメンバー間で共有化されるので、チーム全体のスキルがアップし、目標達成率も上がります。

 また、仕事に安心して集中できるため、業務が効率化し、業績がアップします。

 さらに、どのような意見を言ってもいいという安心感から、斬新なアイデア、創造的な発想が出やすくなり、イノベーションが起きやすくなります。加えて、ストレスが減って、メンバーのメンタルヘルスの状態がよくなるため、離職率が低くなり、優秀な人材の流出を防げる──というようなメリットがあったのです。

 つまり、「言いたいことが言える」風通しがいい状態が、アイデアを生み出し、スキルを向上させ、イノベーションの可能性を広げたのです。

 振り返ってみれば、これは、かつてのソニーやホンダのような企業風土といっていいでしょう。ソニーの創業者の井深大氏は、同社の前身の東京通信工業の設立趣意として、「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」を掲げました。また、かつてのホンダの企業風土は「ワイガヤ会議」という言葉に象徴されていました。平社員から社長(本田宗一郎氏)まで、役職や年齢に関係なく、平場でワイワイガヤガヤと話し合う──それがワイガヤ会議でした。