自動車業界の誤算の一つは、コロナ禍がこれほどまでに長引くと予想していなかったことかもしれません。あるいはコロナ禍において、公共交通機関が不安視されて自家用車の需要が伸びることを予想していなかったことかもしれません。
例えば米国ではすでに浸透していたライドシェアリング(相乗り)サービスを利用すると新型コロナウイルスに感染する危険性が高まるのではと不安視され、自家用車で移動する人が増えました。中国ではコロナ禍により自動車の需要はやや落ち込みましたが、もともと自動車自体の需要が好調だったために、早期に需要が回復しました。日本でもコロナ禍が始まった直後には自動車販売が落ち込んだものの、その後はコロナ前よりも需要がやや増えています。そのため自動車業界が今までどおりの生産を再開しようとしたときには、すでに半導体の生産ラインに空きはなく、半導体の供給が滞るという事態が発生したのです。
そんな半導体不足に拍車をかけたのが、半導体製造工場で相次いだ火災です。火災の原因はさまざまですが、主に半導体製造装置の接触不良や半断線、過電流などが挙げられます。2020年10月には旭化成エレクトロニクスの半導体製造工場(宮崎県延岡市)で、2021年3月にはルネサス エレクトロニクスの生産子会社であるルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリングの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で火災が発生し、それぞれ長期の生産停止を余儀なくされました。それにより自動車産業のみならず、多くの産業で半導体が入手できなくなり、半導体不足の騒動はより大きくなってしまったのです。
1つの工場停止により業界全体が生産停止に陥るのは、半導体業界に限った話ではありません。2007年に発生した新潟県中越沖地震では自動車部品メーカーのリケンの工場が被災して生産ラインがストップし、多くの自動車メーカーで車を生産できなくなりました。2011年7月に発生したタイの大洪水では電子部品などの供給が滞り、日本でも照明器具が手に入りにくくなるなどの問題が発生しました。経済がグローバル化しサプライチェーンが世界中に張り巡らされる現在、1カ所で起こった事故や災害により、半導体や電子部品が入手できず多くの最終製品が生産できなくなる問題は、いつどこで発生してもおかしくありません。