近年、「頭の回転の速さの象徴」としてお笑い芸人が多くの場面で活躍をしている。そんなあらゆるジャンルで活躍をし続けるお笑い芸人たちをこれまで30年間指導し、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも話題になった伝説のお笑い講師・本多正識氏による1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』が発刊された。ナインティナインや中川家、キングコング、かまいたちなど今をときめく芸人たちがその門を叩いてきた「NSC(吉本総合芸能学院)」で本多氏が教えてきた内容をビジネスパーソン向けにアレンジした『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』より、本文の一部をもとに仕事に関する本多氏の考え方をお届けする。

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頭の回転が速い人が普段から徹底していること

 私は1984年からオール阪神・巨人さんの漫才台本の多くを書かせていただいています。お2人と仕事をしていて、いい意味で鳥肌が立った話……。

 1990年、大阪で「国際花と緑の博覧会」の期間中にNHKの生放送で2人が10分ネタを披露することになったときのこと。出番は番組の最後の「トリ」です。本番の2時間前ぐらいに最終ネタ合わせをすることになりました。

 私がいつものようにストップウォッチを手にして「はい、どうぞ!」と声をかけると「はい、どうもオール阪神・巨人です」と軽快にネタがはじまり、最後の「ええかげんにせえ!」という阪神さんのツッコミで終了。巨人師匠に「こんなもんやろ、なんぼ?(何分?)」と聞かれ、ストップウォッチを見るとなんと「9分59秒」なのです。

巨人師匠「よっしゃ」
阪神師匠「ええんちゃう?」

 と当たり前のようにされているお2人を見て、全身に鳥肌が立っていました。話はここで終わりません。

 楽屋のモニターで番組を見ながら「押してるな……(番組の進行が遅れている)」と話しているところへ、ディレクターが走って来て「申し訳ありません。押してましてネタ時間8分でお願い致します」とだけ告げて、返事すら聞かずに走り去りました。

 このとき、すでに出番まで15分を切っていました。今から細かい調整をすることは不可能なので、どこをカットするか緊急打ち合わせ。話の展開が不自然にならないようにカットするところと繋ぎのセリフを慌ただしく決めて舞台へ向かわれたお2人。

 私はドキドキしながら時間内に収まることを願いながら見守っていましたが、8分のところを7分59秒でキッチリ収められました。オール阪神・巨人さんの体内時計恐るべし! まさに日頃の稽古の賜物。

 日頃から緊張感を持って稽古をしているからこそ、こういったトラブルにも柔軟に対応できるのでしょう。当たり前のことですが、それでも仕事に慣れてくるとこの気持ちを忘れてしまいがちです。日頃の努力を惜しんではいけないとお2人からあらためて教えていただきました。