「ESG経営で勝つ」ために
コーポレートガバナンスの精神に立ち返る

 こうした先進企業の取り組みを参考に、今後日本企業が考えるべきESG経営高度化のポイントを3点述べたい。

【ポイント1】
ESG経営は長期視点のマラソン

 2023年3月31日、東京証券取引所(以下「東証」)がプライム市場とスタンダード市場に上場する約3,300社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」という書簡を出した。

 この書簡を受けて、一部企業では、過剰に蓄積したキャッシュを自己株式取得などの手段で投資家に還元する動きがみられる。2023年度の日本企業の自社株買いは、おそらく過去最高の水準となる。もちろん「過剰」な蓄積であればこれを還元することは当然のことだ。

 しかし、長期の伴走者たる投資家にとっては、短期的な還元以上に、経営者が資本コストを意識しながら中長期的な企業価値向上に取り組むことこそが期待値だ。今後も対話を継続していくことを期待する長期視点の投資家は、サステナビリティを切り口にした対話を待っている。

【ポイント2】
誠意あるコンプライ・オア・エクスプレイン

 自社がコーポレートガバナンス報告書に記載している内容は本当にコンプライなのか、虚心坦懐に精査することが肝要だ。

 現時点では、回答は企業の裁量の範囲であり、その質はバラバラというのが実態だろう。「コンプライしておけば突っ込まれない」と考える企業担当者がいると考えたくはないが、全項目でコンプライの企業が多すぎる。また、「検討中」としたまま、放置している企業には、自律的な行動を促す必要があるし、いずれ強制力が働くことになるだろう。

 結局はコンプライ・オア・エクスプレインが適切に運用されなかったことが、有価証券報告書におけるサステナビリティ項目の新設(による記載の強制)につながったと考えている。正々堂々とエクスプレインする企業を応援していきたい。