役割を与え、やる気を引き出すことも
2021年の箱根駅伝優勝時の主務は青山尚大という者だった。もともとは選手だったが、なかなか結果が出ず、3年目からマネージャーに転向した。やはりその3年目は気持ちが乗らず、ミスばかりして、私によく叱られていた。しかし彼は暗算の能力に優れており、駅伝のレース中でも選手のラップタイムを読み上げ、「このペースでいけば、3分後には前をいく選手に追いつきます」と、私が聞く前にどんどん情報を伝えてくれた。私はそこを褒め続けた。「すごいな。こんなマネージャーは初めてだぞ」。
自分の力を認められて自信を得たことに加え、人のために働く喜びを知り、選手時代には実感できなかったチーム内での居場所を見つけたのだろう。4年目はいきいきと仕事をするようになった。それまでは自分が走力で劣っていたためか、駅伝メンバーにも遠慮がちに話しかけていたが、対等に付き合うようになり、最終的には「ダメなものはダメだ」としっかり意見を言えるようになった。そして、チーム内の誰からも尊敬されるまでになった。箱根駅伝の優勝の陰には彼の活躍があったことは間違いない。きっと彼も選手として箱根駅伝を走りたかっただろう。だがその思いを胸にしまい、新たな役割を担い、全うしてくれたのだ。例年、私は箱根駅伝の10区でフィニッシュ地点が近づくと、一緒に運営管理車に乗っている主務にマイクを渡すようにしている。
「最後に、おまえが思いを託した選手に声をかけてやれ。そして、箱根路におまえの思いを刻め」
4年生の主務のときだけで、3年生が主務のときはやらせていない。この優勝時にも青山にマイクを渡した。私とチームを支えてくれた者のこれまでの労に報い、最後はスポットライトを当ててあげたいというつもりでマイクを渡している。