世界でまれなビジネスモデルと株価の割安感

 三菱商事の24年3月期の業績見通しは、一転して、純利益は9200億円に減少すると予想している。市況の反落などが要因だという。ただそれでも、過去の純利益の推移で見れば、9000億円台は相応に高い水準だ。資産の売却、得られた資金の再配分によるデジタル化や脱炭素関連分野での事業運営体制の強化といった成長戦略に支えられ、業績は底堅く推移しそうだ。

 世界各国の主要企業のビジネスモデルを比較すると、三菱商事など日本の総合商社に相当する企業の形態は見当たらない。「ラーメンから航空機まで」と称されるように、総合商社は経済活動の川上から川下までを広くカバーする。エネルギー資源や穀物などを輸入に頼るわが国経済が生み出した、独自性の高いビジネスモデルであるともいえる。

 一方で株価には割安感がある。1990年代初頭にバブル経済が崩壊して以降、わが国経済の成長率は停滞した。ごく最近でこそ日経平均株価は好調なものの、世界的に見て、日本株は長らく割安感が強かった。

 総合商社は複合的な事業ポートフォリオを持つため、これまで、ともすれば事業内容が分りにくいといった投資家の見方(コングロマリット・ディスカウント)が多かった。そうした事情もあり、総合商社株は割安に推移してきた。

 5月15日時点で、三菱商事の株価純資産倍率(PBR)は0.95倍である。理論上、今すぐに企業が解散する場合、株主が受け取れる純資産の価値を下回る水準で株価は放置されている。他国にはない独自性の高いビジネスモデルや株価の割安感こそ、バフェット氏が三菱商事など総合商社株を買い増した理由だ。

 中期的に、脱炭素やデジタル化の加速を背景に、わが国の素材、精密機械、発電装置などへの需要は増えるだろう。米国との関係を基礎に安全保障体制を整備してきた日本で、事業運営体制を強化する海外企業も増えている。

 三菱商事がいっそう事業環境の変化に対応し、収益性を向上する展開を期待したい。それは、わが国経済の活力向上に大きく影響するはずだ。

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
11段落目:「1円の円安/円高が、年間40億円の増減益の要因」→「1円の円安/円高が、年間50億円の増減益の要因」
(2023年5月29日16:10 ダイヤモンド編集部)