プログラミングを極めること
自体に夢中になると、大概スベる

 学生から「何を考えてゲームを作っているのですか?」という質問もあった。

 笑わせたい。野田さんは、それがほぼ100%だと言う。今まで作ったゲームの中で、笑いを無視したゲームは一つもない。

「僕の場合、お笑いライブで披露するので、絶対にスベりたくありません。だから、スベらないように作っています。これは、“作り手あるある”かもしれませんが、プログラミングを極めること自体に夢中になっていくと、大概スベります。ゲームを作っていると、ここをもっとシビアにしたらゲーム性が上がるとか、高度なできばえになる、と思うときがあるんです。でも、昔のファミコンゲームって粗いけど楽しかったじゃないですか。遊ぶ側は、そんなにすごいものじゃなくても、意外と楽しんでくれたりするんですよね」(野田さん)

 ものづくりで忘れてはいけないのが、ユーザーを考えることだ。作り手が自分の作りたいものや自己実現に執着するとき、ユーザーは置き去りにされる。野田さんの「観客が笑ってくれるなら完璧じゃなくてもOK」という考え方は、企業のDXやサービス開発にも重要な示唆を与えてくれているように思う。

掛け合わせれば、
唯一無二になる

「野田さんのように、2つのことを同時にやる器用さがありません。正直プログラミングだけで精いっぱいなのですが、2つのことをうまくやるコツはありますか?」

 この質問に対して野田さんは、コードを書くか書かないかというだけで「ネタ作りもゲーム作りも芸人の仕事だと思っている」と答えた。

「先輩芸人の中には、お笑い一本じゃなくて大丈夫かと心配してくれる人もいました。『知らねー。最後に笑うのは俺だ』と黙って楽屋でコードを書いていたら、最終的には誰も話しかけてこなくなりました」(野田さん)

 野田さんは、「王道でやると、M-1もR-1もボコボコに負ける」と自己評価する。しかし、ゲームという要素を加えたら、「お姉さんのストッキングをハサミで切る」というゲームネタでR-1の優勝を勝ち取った。

「プログラミングもそうです。技術力で言ったら、僕は下の下でしかありません。でも、芸人というスパイスを加えるだけで、大したプログラムが書けなくても『こんなことができるんだ』と盛り上がってもらえるんです。これは一つの勝ち方としてあると思います」(野田さん)

 一般企業でも徐々に複業をする人が増えている。2022年の経団連の調査では、回答企業の53.1%が、社員の兼業・副業を認めている。

 一方、兼業・副業をする個人が実感している効果に目を向けると、収入以外に、「新しい視点、柔軟な発想ができるようになった」が28.1%、「自分自身の市場価値の高まりを感じた」が13.7%。複数の要素を掛け合わせることで、新たな強みを見いだす、あるいは作り出そうとする人が増えているのだ。

リクルートが実施した「兼業・副業に関する動向調査 データ集 2022」リクルートが実施した「兼業・副業に関する動向調査 データ集 2022」より 拡大画像表示

 兼業・副業にも向き不向きがある。休みは減るし、本業がおろそかになれば評価も下がる。目先のお金やキャリアのために無理してやるべきことではない。しかし、唯一無二の何者かになりたいのなら、レッドオーシャンでナンバーワンを目指すより、複数の要素を掛け合わせて新しい領域を作ってしまう方が近道になる可能性は高い。挑戦する価値がある。