医学部&医者#13Illustration by Yukiko Kikutani

医師不足地域の処方箋として広がる医学部の「地域枠」。キャリアの制限はあれど、学費を安く抑えられるのが魅力だ。しかし、光の裏には影がある。特集『今なら目指せる! 医学部&医者』(全24回)の#13は、一見簡単でお得な地域枠の知られざる裏事情に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

「週刊ダイヤモンド」2023年6月3日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

新潟の医学部地域枠に大問題
「対応できなくなる恐れ」

「指導医が不足していて、拡大する地域枠の研修医に対応できなくなる恐れがある」。

 悲痛な声でそう話すのは、新潟県内の病院に勤務する消化器内科の医師だ。

 地域枠とは、主に地方の医師不足対策として、勤務する地域や診療科など卒業後の進路を制限する代わりに、一般入試とは別枠で設けられている入試枠だ。

 しかし地方の医師不足対策の医学部定員が増え続けてきた半面、実はマクロでは人口減少に伴い今後医師は余ると推計されている。全体の医学部定員は減らしたいが偏在が著しいため、医師が地方に定着してくれる地域枠の割合を増やしたいというのが国の思惑だ。

 成績優秀層の受験生は卒業後の縛りがある地域枠を敬遠する傾向があり、多くの大学では一般入試よりも易しい。

 地域枠の一番のおいしい点は学費だろう。国公立、私立問わずほとんどの大学で、学生が自己負担する学費が減額される。「医師になれるならどこへでも行きます」という受験生にとっては、簡単に入れて学費もお得な最高の制度なのである。

 これまでは大学がある地元の高校生のみを対象にして他県からは応募できないものが多く、利用できる受験生はごくわずかだった。しかし、昨今は医師不足の自治体が他県からも受験可能な地域枠の創設に力を入れ始めており、中でも盛んだったのが冒頭の新潟県だった。

 医師不足地域と学生が、まさにウィンウィンになるはずの地域枠で、なぜ新潟県の医師が冒頭のように嘆く事態となっているのか。

 次ページでは、その真相を明らかにする。また、学費が実質ゼロになる私立大学医学部の地域枠をリスト化した。実は今、地域枠を利用すると国公立大学よりも学費が安くなる私立大学が増えている。