ファブレスでありながら
ソフトウェアでは「垂直統合」を実現
NVIDIAはプロセッサーメーカーとして誕生しましたが、もはやハードウェアではなくソフトウェアの会社といっていいほど、ソフトウェア開発に多額の投資を行い、大変優秀な人材を集めています。しかし、最初からソフトウェアに事業としての可能性があると強い自信を持っていたわけではないようです。
NVIDIA CEOのジェンセン・フアン氏は、2016年のForbes誌のインタビューに対し「自社のグラフィックチップが最新のビデオゲームを動かす以上の可能性をを秘めていることは知っていたが、ディープラーニングへのシフトは予想していなかった」と述べています。しかし、彼らはCUDAとAIに賭け、この10年ほどで大きく変貌を遂げることとなりました。
現在の半導体業界は、「水平分業」と「垂直統合」とでは、どちらかというと水平分業、つまりファブレス企業として設計だけを行う会社が、TSMCのような企業へ製造を委託する潮流の中にあります。Intelやサムスンは垂直統合モデルをとっていますが、Intelなどは特に水平分業モデルの企業による攻勢の影響を受け、業界の中では成長が鈍化しています。
一方のNVIDIAは、チップの製造は外部に委託するファブレスメーカーですが、「自社でソフトウェアまで提供している」という意味では水平分業と垂直統合の両面を実現しているといえそうです。CUDAを出して機械学習での賭けに勝ったことだけでなく、このことがNVIDIAの成功の要因といえるかもしれません。
NVIDIAは単にソフトウェアライブラリを持つだけではなく、自動運転のためのソフトウェア開発を自社で行い、フォルクスワーゲンやアウディへ提供しています。こうした一連の技術群に加え、データセンターレベルの機能も自社で展開し、下流から上流まで一通りの技術を有するのがNVIDIAの特徴です。
歴史的には「プラットフォーマーは他のプラットフォーマーを排除する」という法則によって、苦い経験を持つNVIDIA。単に一部品を展開するのではなく、できるだけ多くの部分で市場に食い込み、ロックインを避けたがる顧客もロックインせざるを得ないような状況を作る戦略を取っているとも考えられます。