植田和男日銀新体制が発足して約2カ月が経過した。この間、円は対ドルで6%も下落、物価はなお4%を超える高水準にあり、市場関係者の間では「黒田東彦前総裁と実はあまり変わらないのでは」という不安が渦巻いている。インフレをあえて無理に2%へ押し上げる必要はないというスイス中央銀行の主張をひもとくと、日銀の説明との違いが鮮明になる。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
世界のインフレ率はこれから低下するか
「世界は“ローフレーション”に戻れるのだろうか?」。昨年来、海外の多くの機関投資家がこのテーマに強い関心を示している。
“ローフレーション”とは、「低い(Low)」と「インフレーション(Inflation)」を掛け合わせたIMF(国際通貨基金)のエコノミストによる造語である。コロナ禍前の世界経済は長くその状態にあった。
下のグラフは、食料とエネルギーを除いたコア・インフレ率である。米国では需要が強い好況期であっても、同インフレ率が2%を大幅に超えない低インフレの時代が続いた。これは、欧州など他の先進国も同様だ。
1980年代後半以降の日本のインフレ率は、米国とおおよそパラレルに動いてきた。よって、米国のインフレ率がコロナ禍前の“ローフレーション”に戻るかどうかが、今後の日本のインフレを見極める上でも重要だ。
IMFは、主要国の財政赤字縮小が今後進むなら、世界は再び“ローフレーション”に戻るとの見方を示している。しかし、コロナ危機下で肥大させた財政支出を削減して元に戻すことは、日本ほどではないにしても、他の多くの国々も容易ではないだろう。
ここからは、“ローフレーション”にはしばらく戻らないという見方をいくつか紹介した上で、世界経済に構造変化が起きているかもしれないときに、インフレをあえて無理に2%へ押し上げる必要はないと力説するスイス中央銀行の主張を紹介する。日銀とのコントラストが明確になってくると思われる。