要因その1:
投稿の代償が知られていない

 迷惑動画・写真の投稿が繰り返される要因の一つ目として、炎上したときに払う加害者の代償の大きさが意外に理解されていないという点が挙げられる。投稿を行う側、それを報じる側、被害を受けた飲食店側、それぞれの事情が絡み合って、理解が進まないのだ。

 投稿を行う側の事情としては、サイクルの速さが背景にある。ニコニコ動画、Facebook、Twitter、Instagram、TikTokと、投稿先が時代とともにどんどん変遷し、また投稿者自体も世代交代する。そのため、過去事例が教訓として共有されていないのである。

 報じる側が「喉元を過ぎてしまったニュースのその後」を大きく詳しく扱わないというのも、どれだけの代償を払うことになるのか理解が進まない理由だ。

 前述したように2016年におでんツンツン男が逮捕されているのだが、今回のくら寿司の件の逮捕を「迷惑動画で初の逮捕者」とする報道もあった。ニュースの内容や記事内容をよく見ると、「おそらく全国初」「飲食店では」「今回の騒動で」などとなっているのだが、パッと見出しを見ただけでは伝わらず、今回の逮捕が特例のように見えてしまう。

 過去に迷惑動画・写真を投稿した者がその後どのような代償を払ったのかを分かりやすく報じることは、類似案件が繰り返されることを防ぐ一助として有効だ。だが、報じる側の事情としては、旬のネタではなくなったものを大きく扱っても需要がないだけでなく、せっかく一段落した騒動を掘り起こすことにより、かえって模倣事件を誘発しかねないという面もあり、悩ましい。

 また、被害を受けた飲食店側にも、飲食店テロによる悪評や客離れなどの悪影響を最小限にとどめるため、大きな声を上げるよりも事態の迅速な収束を優先させたいという事情がある。

 ましてや、バイトテロにおいては、企業側は被害者でもあり一般消費者の批判を受ける側でもある。アルバイトとはいえ、従業員が迷惑動画や写真の撮影を業務時間内などに店舗で行っているためだ。当事者に厳正な対処を行いつつ、問題の火消しもしなくてはならないとなれば、強硬な姿勢は貫きにくいだろう。例えばテラ豚丼事件では、当該牛丼チェーン店はアルバイト店員を処分したことを発表したのみで、処分内容については公表していない。