来るぞ370兆円市場 ビッグバン!宇宙ビジネス#4Photo:JIJI

20年ぶりにしかも立て続けに2件のロケットの打ち上げに失敗してしまったJAXA(宇宙航空研究開発機構)。実は、その裏でJAXAの宇宙開発と宇宙事業に対する重大な欠陥が明らかになったことは、あまり知られていない。特集『来るぞ370兆円市場 ビッグバン!宇宙ビジネス』(全13回)の#4では、ベテラン宇宙ライターが打ち上げ失敗から見える「日本の宇宙開発体制」の大問題を指摘する。(フリーライター 大貫 剛)

H3ロケットはなぜ失敗したか
「実績のある技術」が原因の可能性

「日本のロケットは定時運行」――。あたかも鉄道や旅客機のような高い信頼性を売り物にしてきたJAXA(宇宙航空研究開発機構)に異常事態が発生している。2023年3月7日、日本の次期大型ロケットとして開発されたH3ロケットが、初号機でいきなり打ち上げに失敗したのだ。

 JAXAは03年のH-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗の後、43機のH-IIAロケット、9機のH-IIBロケット、5機のイプシロンロケットの打ち上げを成功させており、成功率の高さだけでなく打ち上げ遅延が少ないことも誇ってきた。

 ところが22年10月12日、約20年ぶりにイプシロンロケット6号機の打ち上げに失敗、それから半年もたたずに今度はH3ロケット初号機が失敗したのだ。一部の部品を共通使用しているH-IIAロケットも含めて、原因調査と対策のため打ち上げが一時凍結された。結果的に、H-IIAロケットを含むJAXAの全ロケットが飛行停止に追い込まれるという事態になっている。

 6月末現在、H3ロケット初号機打ち上げ失敗の原因は確定されていない。一度発射したロケット機体は回収できず、完全な原因特定が可能とは限らないのだ。そこでJAXAはまず、失敗の原因になりえる9パターンのシナリオを検討し、全て対策を施すことにした。実はこの9パターンはどれも、H-IIAロケットからH3ロケットへ流用したLE-5Bというエンジンに関するものだ。H-IIAロケットはこれらの対策を施して、今年8月以降に打ち上げを再開することになった。

 これまでLE-5BエンジンはH-IIAロケットなど50基以上に使われてきたが、同種のトラブルは一度もない。にもかかわらず、なぜかH3ロケットでは初号機でいきなり失敗した。

なぜH3ロケットは失敗したのか。さらに言えば、実は今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ。所管する省庁の性質という背景も見え隠れする。次ページから解説していこう。