NASA(米航空宇宙局)の2025年までに人を月面に送るというアルテミス計画に、日本の官民も前のめりで参加している。政産官学共同の協議会には30社が参加、月ビジネスへの参画を試みる企業は50社を超える。しかも、その顔触れは自動車・メガバンク・金融・ゼネコン・玩具・食品・広告・放送など、ほぼ全業種に及ぶ。特集『来るぞ370兆円市場 ビッグバン!宇宙ビジネス』(全13回)の#11では、今多業種で盛り上がる「月フィーバー」の裏側を追う。なぜ日本企業が月を目指すのか?(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
日本企業が月プロジェクトに全員集合?
50年ぶりの月開発に民間企業が手を挙げる訳
トヨタ自動車、ホンダ、スズキ、ソニーグループ、パナソニック ホールディングス、鹿島、大成建設、大林組、清水建設、竹中工務店、日揮グローバル、千代田化工建設、NTTデータグループ、キユーピー、コマツ、三井住友銀行、日本航空、電通グループ――。
ほぼ全業種の大手企業が集結するこのリストは、全てなんらかの形で「月面開発」プロジェクトに参加している企業の一部だ。
米国のアポロ計画終了から50年。今にわかに月開発への注目が集まっている。米国が2030年代以降も視野に入れた長期的な月開発計画「アルテミス計画」を、欧州、アジア、中東の20数カ国も巻き込み進めているからだ。
この計画と並ぶ形で、日本でも内閣府、経済産業省、国土交通省、農林水産省、文部科学省の5省庁が月関連プロジェクトを立ち上げている。
50年前のアポロ計画は、米国・ソビエト連邦の冷戦の産物でもあった。いち早く宇宙飛行士を生み出したソ連を凌駕するために進められていたが、あまりの巨額なコストのために中止となった。
アルテミス計画は17年にトランプ前米大統領が署名して始まった。当初は独自に月開発を進める中国へのけん制目的で、アポロ計画と動機は似ている。だが、その内容はかなり異なる。多国籍企業による、将来的な民間需要を当て込んだものだからだ。
本特集で触れてきた、国による宇宙開発、ではなく、民間企業による宇宙開発、の流れがここでも起きている。
「現状40年までに計画されているミッションで運搬される貨物量などから逆算すると、計1700億ドル(約24.6兆円)が月面ビジネスの市場とみられている。月を、火星などへの探索を行う中継拠点として整備する場合、これより伸びる可能性はある」とPwCコンサルティングの榎本陽介マネージャーは指摘する。
その中でも日本の取り組み方はユニークだという。
「これだけバリューチェーンが異なる企業が集まっているのは国際的にも他に例がないし、関心を持つ企業の数もトップクラスだ。さらに国がやりたいことをスペックとして決めるのではなく、計画段階から民間が参加するなども新しい」と内田敦・三菱総合研究所フロンティア・テクノロジー本部フロンティア戦略グループグループリーダーは言う。
実際に多くのカネが動き、多くの日本企業が実現を目指して動いている50年ぶりの「月ブーム」。熱狂で終わるのか、それとも新たな一大産業の入り口を開くのか。次ページからは参入各社の思惑と動向を詳しく見ていこう。