相手の期待値を調整し
速さを演出

 例えば同じ仕事を同じだけの時間で完了することができるA君とB君がいるとする。A君は本来翌日の17時までに完了すれば良い仕事を引き受けた際、本日中に終わらせます!と力強く宣言し、結果として翌日の17時に提出することになった。一方B君は、明日の18時までいただければ終わらせることができるかもしれません、と控えめに宣言した上で、結果として翌日の17時に提出したとする。

 この時、2人は同じ仕事を同じ時間に終わらせているにもかかわらず、周囲にいる人間からはA君は自分で定めた締切りを守れなかったルーズな人、そしてB君はしっかりと締切りに合わせて仕事ができる人という評価になる。

 A君とB君の明暗を分けたのは、B君の自分の作業に対する見積りの正確さと期待値調整の巧みさだ。A君はそこを見誤ったため、必要のない「遅延」を自ら招いている。

 私も過去、クライアントが3日後に出てくれば嬉しい、といった仕事を「今日中に提出します!」などと期限を切ってしまい、結果として終わらないことが多々あった。その都度先輩たちから「もっと保守的な期限を言っておけばいいだろ!3日後って言っておいて、2日後に出せば十分喜ぶじゃん!」と怒られたものだ。

 はじめのうちは一つの作業を開始する時に、時間を予測した上で、ストップウォッチで計測するのが良い。おそらく予測時間をオーバーするだろうが、どの手順や予定外の要素がネックになったかを振り返ることが大切だ。

 私はアナリスト時代によく議事録を作る仕事を頼まれていた。議事録は通常、1時間の会議であれば1時間で作成することが理想だが、実際に書いてみるとなかなかそうはいかない。出席者全員の名前をメモし損ねていて関係者に確認を取らなければならなかったり、出席者の発言の背景を確認したりと、思った以上に時間がかかるものだ。

 また、作業途中で同僚に声をかけられたり緊急のメールに返信をしたり等、“差し込み”が入ると集中力が途切れてしまう。現実的にこうした中断は頻繁に発生するし、そのような想定外の出来事への対応を含めた上で、どの程度の時間があれば一つの仕事を終わらせることができるのか、感覚を研ぎ澄ますことが大切だ。

 予定外の手順を一つずつ予測時間に組み込んでいくことで作業見積りの精度は向上し、上司やクライアントからの「なぜそんなに時間がかかるのか?」という質問に対しても、明確に切り返せるようになる。正しい作業見積りを立てられず、いつまでに仕事が終わるのか明確にできない社会人は、いつまで経っても仕事を任せてもらうことはできないだろう。