ビジネスパフォーマンスが期待できる幸福度の高い働き手クラスターから支持を受ける日系企業

 最後に紹介するのは、働き手の類型化(クラスタリング)に関する内容である。類型化にあたっては、今回の調査で聴取している働く上でのウェルビーイング指標や転職回数などをもとにクラスター分析を行った。働き手は大きく7つに分類された。

 7つのクラスターのうち幸福度が全体平均以上のクラスターとして「マルチアグレッシブミドル層(出現率:18.0%)」「次世代社会貢献追求層(出現率:23.2.%)」「ミドル堅実層(出現率:12.1%)」の3層が挙げられる。先行研究から幸福度の高さは創造性、生産性などにおいて高いビジネスパフォーマンスが期待できることが分かっているため、これらの3つの層はポテンシャルクラスターと捉えることができる。

 ポテンシャルクラスターである3層は、調査結果を分析すると、同一待遇時において欧米系企業よりも日系企業を最優先で検討する者が多く含まれていることも確認された。つまり、条件面を整えられれば、ビジネスパフォーマンスが期待できる幸福度の高い働き手クラスターから日系企業は支持されやすい状況にあるということが、今回の調査から確認できた。

 さらにポテンシャルクラスター3層の中で、同一待遇時に日系企業を最優先で検討する者が重要視する働く上でのウェルビーイングは何かを特定することとした。それを整理したのが、図表5である。

 日系企業側から、ポテンシャルクラスターの中に含まれる日系企業を最優先で検討する者に対して訴求すべきツボを押さえた効果的なアプローチを可能にするためである。機械学習を用いた決定木分析の結果によると、「社会に与える影響・インパクトの大きさ」と「自分の専門性・技能発揮が可能であること」の大きく2つが、ポテンシャルクラスターに対して有効に作用すると考えられる。

 したがって、日系企業は欧米企業並みの待遇を担保した上で、ポテンシャルクラスターに対しては「ワークライフバランスの充実」といった点よりも、「社会に与える影響・インパクトの大きさ」や「自分の専門性・技能発揮が可能であること」を実現できる企業・職場であることを中心的に訴求していくことが、有効と言える。もちろん、ただ単にイメージ訴求するだけでなく、実の伴う企業・職場であることが必要なのは言うまでもない。

 全5回にわたってビジネス、企業経営においてウェルビーイングが重要なイシューになりつつあること、ウェルビーイングを経営イシューとして腰を据えて取り組む必要性があることについて、取り組み事例や各種調査データによるファクトを交えながら確認してきた。

 各回でご紹介したとおり、幸福度向上にコミットすることは企業の競争優位性を高め、社会的公器としての存在価値を発揮する上でのパワフルな切り口となるだろう。従業員・顧客ウェルビーイングの向上を通じて競争優位を築くにあたって、本稿が少しでも参考になれば幸いである。

PwCコンサルティング調査から見る「世界の働き手のウェルビーイング」と日本企業への示唆髙木健一(たかぎ・けんいち)
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター。消費財をはじめとする幅広い業界に対するビジョン策定、全社/事業戦略、顧客戦略/マーケティング/ブランディング、新規事業開発、組織変革等の戦略コンサルティングを手掛ける。また、ウェルビーイングを起点とした経営をテーマにして、アカデミア等との連携を踏まえて、書籍、寄稿、登壇、動画出演等による多数の情報発信や調査、関連プロジェクトを行う。ベネッセコーポレーションにてマーケティング・編集業務、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアにてコンサルティング業務を経験し、現職。京都大学理学部卒、香港科技大学経営学修士(MBA)。

 

PwCコンサルティング調査から見る「世界の働き手のウェルビーイング」と日本企業への示唆川上晶子(かわかみ・あきこ)
PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー。外資系ITリサーチ会社、外資系マーケティングリサーチ会社、外資系コンサルティング会社などを経て、PwCコンサルティングのリサーチ部門に所属。デジタル・CX(カスタマーエクスペリエンス)視点でのリサーチ・業界動向分析・データアナリティクスを軸としたインサイト開発やThought Leadership活動を推進。PwCコンサルティング全社横断組織である幸福度イニシアチブ(Happiness and Well-being Design Initiative)のメンバーとして、リサーチやインサイト開発を支援。