数字でデザインを語り、定量化することの重要性
両氏の報告から田川氏は、「大企業のデザイン経営浸透プロセスには、『製品の価値向上』から『ブランドマネジメント』を経て『経営の補佐役』へ進む──という王道パターンがある」と解説。鷲田氏も「ブランドは会計上の無形資産であり、経営者の思い入れも非常に強い。デザイン組織がブランドにうまく関与できれば、経営層の意識変革を促せる可能性が高い」と指摘した。
そのために重要なのが「数字という共通言語」だ。平賀氏は、全社戦略におけるブランディングの重要性を「価格戦略」とリンケージさせ、役員会議で訴えたことが、合意形成の大きな突破口になったという。「デザイン言語だけでいくら語っても、経営層に最後まで聞いてもらえませんし、経営層側もデザイン理解が進みません。双方が理解し合えるような定量的な言語も取り込んで伝えることが大事です」(平賀氏)。
とはいえ、デザインのパフォーマンスを客観的かつ定量的に評価できる標準指標はいまだなく、「定量化」「指標化」は、特に大企業にとって大きな課題となっている。それを裏付けるように、後半の質疑応答では、KPIの整備方法など、具体的な指標化にまつわる質問が数多く寄せられた。
こうした質問に対して、宇田氏は「デザインの価値は確かに数値化が難しい。だからこそ無理やりにでも数値化して報告を続けるのが大事だと思います」と語る。「私たちも最初は『デザインチームが褒められた回数』まで数えて報告していました。この試みの蓄積が、少しずつ根拠のある数字につながります。ポイントは、その数字が次の目標にどうつながるかという仮説を持ちながらKPI化すること。プロセスのKPIから結果のKPIへ、事業のKPIから企業価値のKPIへと、主体的に仕掛けていく意識が大事です」。
現在、富士通ではデザインセンターが参画したプロジェクトの売り上げや貢献額を、マーケティングツールで自動収集してリアルタイムに可視化し、デザイナー自身が数字と向き合わざるを得ない環境をつくっているという。「今、デザインの有無で売り上げや顧客のライフタイムバリューがどう変わるかなど、さらに突っ込んだ因果関係も明らかにしようとしています。そしてゆくゆくは『デザイン組織の価値』を無形資産として数値化し、PBR(株価純資産倍率)のような企業価値指標にも反映されるようにしていきたいと考えています」(宇田氏)。