なぜ富士通はDX企業に変わるために「デザイン」を活用するのかPIXTA

約13万人の従業員を抱える巨大企業をデザインで変えていく――。富士通では今、「IT企業からDX企業へ」を旗印に、時田隆仁社長自身がCDXO(最高デジタル変革責任者)として推進する全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」が進行中だ。この巨大プロジェクトのけん引役を担うのが企業内デザイン組織「デザインセンター」である。2022年には、デザインの価値を社会に発信する「デザインアドボケート」職が新設され、入社2年目のデザイナーが就任したことも話題になった。同センター長の宇田哲也氏と、デザインアドボケートの横田奈々氏に、全社変革におけるデザインの役割を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、坂田征彦、構成/フリーライター 小林直美)

DXの鍵を握る「デザイン」と「デザイン思考」

――「デザインを重視する組織に変革する」という話は最近よく耳にしますが、「デザインの力によって全社変革を進める」というのは極めてまれな取り組みです。背景と狙いをお聞かせください。

横田 大きな背景は「ビジネスで解くべき課題の変化」です。富士通は「テクノロジーでお客さまの課題を解決する企業」として、これまで「因果関係が明確で、製品やツールで解決できる課題」、あるいは「専門知識を駆使して因果関係を解きほぐせば解決策が見つかる課題」を中心に扱ってきました。ところが、今、求められているのは「人や組織の問題が複雑に絡み合った、正解のない社会課題の解決」です。

 こうした課題に向き合うには、技術や専門的な知識よりむしろ「自ら問いを立てる力」が必要になります。この力をカルチャー、オペレーション、マネジメント、ビジネスモデルなどの全てに埋め込んでいくことが富士通のDXの本質です。そして、そのためには、人の体験に着目し、仮説を立て、検証しながら改善していく……というデザインのアプローチが有効だと考えています。

宇田 それはまさに「デザイン思考」の特質とされることです。富士通ではデザイン思考を「全社員が身に付けるべきビジネスリテラシー」と位置付け、デザインセンターが「学ぶ→実践する→成果を出す」というサイクルを回しながらけん引してきました。

――13万人全員にデザイン思考を浸透させるのは並大抵ではないと思いますが、どのように進められてきたのでしょうか。

宇田 上からしたたらせつつ、下から底上げするというサンドイッチ構造で進めています。全社変革のためには、まずトップの意識が変わることが重要です。社長を含む全経営層が、パーパスの設定や組織文化を変える言葉のデザイン、アジャイルな発想と行動を体験する「Top Firstプログラム」に取り組むと同時に、そこで学んだことを、フジトラを推進するCDXO Division所属のDXデザイナーや、各部門に所属してフジトラをリードするDXオフィサーを通して各部門への浸透を図りました。一方で各部門の現場の社員には、基礎学習としてデザイン思考のeラーニングプログラムを学んでもらいながら、プロジェクト進行にデザイナーが伴走して、デザインの実践価値を現場で実感してもらう取り組みを進めてきました。

横田 また、その中間に当たる幹部層向けのプログラムも別途立ち上げてきました。各部門の代表者となる本部長クラスにデザイン思考が浸透したことの効果は大きく、事業全体が「御用聞き」から「課題抽出型」へのカルチャーの変化が起きたという手応えを得ています。

なぜ富士通はDX企業に変わるために「デザイン」を活用するのか Nana Yokota
富士通 デザインセンター デザインアドボケート

2021年千葉大学工学部デザインコースを卒業後、富士通に入社。
大学在学中は海外デザインワークショップへの参加や、学生デザイナーのコミュニティの立ち上げといった活動を行う。
2022年9月よりポスティングを経てデザインアドボケートに着任。
解くべき問いを生活者と共に考え、デザインアプローチで社会課題に取り組むための企業や業界の枠を超えたエコシステムを社会実装していく活動を発信する。
Photo by ASAMI MAKURA