顧客の評判が良く、繁盛しているはずのレストランが倒産危機に…。そんな話を耳にした「経営の神様」稲盛和夫氏は不思議に思って話を聞いたところ、「案の定、そのレストランの経営者は経営がわかっていない」という結論に至ったという。稲盛氏が見いだした問題点とは何だったのだろうか。(イトモス研究所所長 小倉健一)
「いつか飲食店を開きたい」
そんな夢に冷水を浴びせる調査結果が…
「感謝の気持ちを込めて、これまでのご愛顧に心から感謝申し上げます。ありがとうございました!店主」
最近、そんな閉店のあいさつが掲げられている店を見かけた。会社人生の中で、やっと果たした夢――いつか飲食店を開業したいという願いを持つ人が、私の周りにいる。それも結構多くいるような気がする。
振り返れば、幼なじみの父親も、勤めていた鉄道会社を辞め、小さな居酒屋(日本酒がたくさんそろっている)を開業したことを思い出した。1度しか行かなかったが、今ではそのお店は中国人が経営するラーメン店になってしまっていた。
私自身、飲食店には毎日行くし、飲食店のビジネスモデルや利益率、原価などにはとても関心がある。友人とお酒を飲むたびに「カレーの店なんて始めたら絶対もうかるでしょ」などと軽口をたたいている。
いつか私も飲食店を開業しようか、などと考えていたら、今年に入ってとても恐ろしい調査結果が発表された。飲食店向けに出店・開業・運営の支援サービスを提供する「飲食店ドットコム」の運営会社であるシンクロ・フードが、閉店した飲食店の業態と営業年数の調査結果を公表したのだ(2023年2月1日)。
その調査は、飲食店が閉店する際に、店の内装や設備などを次の店主に引き継ぐ「造作譲渡」の情報を集めて、2016年から22年の間に閉店した飲食店を調べたのだという。3133件のデータに基づいているから、実態をある程度きちんと反映したものであろう。
今回、対象となったのは計18業態で、閉店した飲食店の件数を業態と営業年数ごとに集計したところ、閉店しやすい順に業態を挙げると、「お弁当・惣菜・デリ」「そば・うどん」「カフェ」「ラーメン」だった。この4業態は、営業開始から1年以内の閉店数が3割以上で、3年以内での閉店は6割超に達している。
シンクロ・フードは「ラーメン店とカフェは『出店したい業態』としてトップ5に入る人気業態ですが、同じく出店したい業態として上位である居酒屋・ダイニングバーと比較すると、3年以内に閉店する割合はラーメン店(62.85%)、カフェ(61.61%)に比べ、居酒屋・ダイニングバー(47.47%)と約15%の差があり、ラーメン店やカフェは生き残りが厳しい業態であることがわかります」とプレスリリースで述べている。
コロナ関連の給付金や補助金がなければ
もっと厳しい結果だった可能性も
しかもこの数字は、コロナ禍に伴って飲食店向けの給付金や補助金が支給されたことで、通常よりも閉店率が低くなった可能性が高いことが指摘されている。過去に行われた同社の調査では、「アジア料理」「ラーメン」「中華」「そば・うどん」の1年以内の閉店割合が4割を超え、3年以内の閉店割合は7割を超えていた。コロナ禍が終わりつつある今、給付金をもらえずに経営が行き詰まり、閉店は急増していることだろう。
逆に、閉店までの営業年数が長かった業態(営業3年を超える店舗の割合が最も高かった業態)は、「和食」「寿司」「フランス料理」だという。同社はその原因として、「特に寿司とフランス料理については、専門的な技術を要するため開業までの障壁が高く、他業種と比較すると開店件数が低いため、競合が少ないことも影響していると考えられます」と推測している。
こうした状況は昔から大きく変わっていないようだ。「経営の神様」として知られる稲盛和夫氏は生前、経営のコツを知らないままに会社を経営している人が圧倒的に多い状況を嘆いていた。そして問題点を見抜き、それを指摘する言葉を残している。
来店客からも「おいしい」と評判でも倒産の危機に陥る飲食店とは、どこに問題があるのか。稲盛氏の言葉を紹介しよう。