一方、インフレの「対策」はというと、株式や不動産への投資を行うべきだとか、金を買うべきだとか、ドル預金やドル債を買うべきだとか、資産運用がにわかに注目される。

 だが、率直に言って、世のインフレ対策は資産運用に偏りすぎている。これは、金融界が「インフレ対策のために資産運用が必要だ」と訴え続けてきたことの影響だろう。インフレのリスクは、老後の不安と並んで、長年にわたって運用商品を売り込むための有力商材だった。

 インフレと資産運用の関係をあらためて整理しておくことが重要だ。

リスクを取った資産運用を勧めたい
しかしインフレは運用に関係ない

 一般論として、多くの人にある程度リスクを取った資産運用を勧めたい。しかし、その理由は「将来のインフレに勝つため」ではない。将来がインフレであろうとなかろうと、資産運用を行う方が有利だからリスク資産に投資するのであって、インフレを特別に意識することは不適切だ。

 一つの反論として、「デフレの場合は現預金を持っていても価値が目減りしなかったけれども、インフレになるとそうはいかないから、これからインフレだとすると話が違うのではないか」という意見があるかもしれない。しかし、全般的にデフレないしデフレに近い状況であっても、リスクを取った資産運用は長期的に現預金よりも有利だ。

 逆に、数パーセントのインフレがしばらく続くような状況であっても、長期にならすとリスク資産の運用は現預金よりも有利だろう。

 一方、年率数十パーセントに及ぶようなインフレになって、それが続くような場合は、そもそも金融資産のほぼ全てがダメだろう。インフレに追いつくことは難しいはずだ。だが、だからといって、そのようなインフレになると想定して、例えばその対策に現物の金を持とうとすると、そうならない場合に対して効率が悪すぎる。そして、そんなインフレが起こるのか、確率を考えるべきだ。

 率直に言って、インフレに関して、起こり得る全ての場合に関して資産運用の対応によって、働かずに、生活水準を落とさずに、逃げ切りが可能だというほど「半端なお金持ち」は安全圏にいない。

 確率的にごく小さな状況に対しては諦めることが賢いかもしれない。また、通常はいきなり2桁のインフレになるわけではないので、将来の状況に応じてどうするか考える時間はあるはずだと割り切るのが現実的だろう。