季節や状況を問わず、噴き出す汗に悩まされる「多汗症」。脇の下の汗染みや、ぐっしょりぬれた手のひらを人目にさらすストレスで心の負担も大きい。
感染症など原因が明らかな続発性の多汗症は治療で改善するが、原因がはっきりしない原発性の多汗症は、市販の制汗剤などでしのいでいる人も多い。
2023年に日本皮膚科学会が公開した「原発性局所多汗症診療ガイドライン改訂版」によると、原発性多汗症の診断基準は、(1)発症が25歳以下である、(2)左右対称に発汗がみられる、(3)睡眠中は発汗が止まっている、(4)週に1回以上、多汗で困る状況がある、(5)家族や親戚に多汗症の人がいる、そして(6)多汗によって日常生活に支障を来している、のうち2項目以上に当てはまる場合だ。
脇汗(腋窩多汗症)の治療に関しては20年以降、抗コリン薬が相次いで発売され、前述のガイドラインでも推奨された。
抗コリン薬は、交感神経から分泌される神経伝達物質のアセチルコリンの作用を阻害することで、汗を抑える薬。日本ではゲル状の塗り薬と、シートタイプの2剤が保険診療で利用できる。ちなみに、シートタイプの薬剤費は14日分で1100円(3割負担の場合)。もし、抗コリン薬で発汗が期待ほど抑えられないときは、汗の通り道をふさぐ「塩化アルミニウム」の塗り薬が併用される。
手のひらの汗(手掌多汗症)については、水中で手のひらに通電して汗の出口をつぶし、汗を出にくくする方法や、高額なボツリヌス毒素製剤の注射剤くらいしか治療法がなかったが、この6月に同じく抗コリン薬のローション剤が発売された。1週間分の薬価は、3割負担で707円ほどだ。
ある調査によると、腋窩多汗症の成人は制汗剤などの衛生用品に年間9325円(男性1万0510円、女性8539円)を費やしているという。これに自由診療などの医療費を合わせると、年間10万円近くを汗対策につぎ込んでいる可能性がある。
景気の行方が曖昧な昨今、せっかく治療をするなら、費用対効果の高い保険診療を選びたい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)