近年、地球規模の温暖化の影響で、冬期と夏期の死亡率の差が縮まっている。
冬期の死亡リスクは寒暖差による血圧の乱高下の影響が大きいが、夏期の死亡リスクは高過ぎる気温が原因の熱中症だ。天気予報の最高気温を見て対策を立てる人も多いだろうが、本当に気をつけたいのは「最低気温」らしい。
筑波大学の研究グループは、日本の47都道府県の1973~2015年(43年間)の気象データと「疾病、障害及び死因の統計分類」(厚生労働省)のデータを用い、死因別に熱帯夜と死亡リスクの関係を調査した。
熱帯夜の定義は、1日の最低気温が25度以上か、研究期間中に記録した1日の最低気温の95パーセンタイル値以上(全体を100とすると、低いほうから数えて95番目以上)の日とした。その結果、熱帯夜は4~11月に限定されたため、解析もこの月間に絞った。
追跡期間中の死亡例、2472万1226人について解析した結果、熱帯夜ではない日を1とした場合、最低気温25度以上の日の死亡リスクは1.09、最低気温が95パーセンタイル値以上の日では1.10と、有意に死亡率が上昇していた。
疾患別では、心筋梗塞や心不全などの心臓病と脳卒中のほか、肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ぜんそくなど呼吸器の病気、腎臓病や高齢(老衰)でも、軒並み死亡率が上昇していたのである。
また北海道から沖縄まで、全ての地域で晩夏よりも初夏の熱帯夜で死亡リスクが高かった。研究者は「酷暑や熱波だけではなく、熱帯夜の健康リスクにも十分、配慮する必要がある」と警告している。
古典的な定義の初夏は5~6月の梅雨入りまでの期間を指すが、今回の研究では6月中旬~7月を初夏とし、8月中旬以降を晩夏と定義している。日差しの強さよりも梅雨前後の蒸し暑さがこたえる時期は、年間でも冬期に次ぐ「死亡リスクが高い季節」なのだ。
電気料金など家計の固定費負担が辛い毎日だが、最低気温が25度を上回る日が連続し始めたら、エアコン使用をためらわないこと。遠方の老親にも警告しておこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)