ロシアの庶民に広がる欧米のファストフード文化へのあこがれを機敏にとらえてホットドッグに着目したプリゴジン氏には、確かに商才があった。

 97年には、パリの人気店を模したという水上レストランを開き、大ヒットさせる。プーチン氏はここが大のお気に入りで、大統領就任後も当時のシラク仏大統領やブッシュ米大統領を招いて食事を共にしている。

 その後、プリゴジン氏は学校給食や軍のケータリング事業などを手がけて、富を築く。プーチン氏との関係抜きには考えられない成功だった。

 プリゴジン氏の「プーチンの料理人」というあだ名は、こうした経歴に由来している。

売った恩が力の源泉

 民間軍事会社「ワグネル」が設立されたのは、2010年代のことと見られている。

 ロシアでは以前から、正規軍が直接関与できないような作戦に従事する秘密部隊の整備が必要だという議論があった。

 そうした部隊を、ロシア軍内のスパイ組織である参謀本部情報総局(GRU)の傘下に置く案もあったようだ。しかし結局、軍の外部にワグネルを創設し、一介の民間人のプリゴジン氏に任せることになった。

 ワグネルは、シリアやウクライナ東部の特殊作戦に従事したほか、アフリカの政情不安な国で軍事顧問や警備の仕事を請け負ってきた。

 ワグネルは、その見返りに、金やダイヤモンドなどの利権を手にしたと指摘されている。そうして得た巨額の富は、対米世論工作に使われただけでなく、プーチン氏の周辺に流れている可能性も指摘されている。

 プーチン氏に売った恩が、プリゴジン氏の力の源泉だ。(朝日新聞論説委員・駒木明義)

AERA 2023年7月17日号より抜粋

AERA dot.より転載