日本人のデジタル遅れが際立つ

 寄港地のターミナルでは、無料のWi-Fiを利用できるところが多いが、なかには、ターミナルの飲食店の飲み物を頼まないと、利用させてもらえないところもある。たとえば、グアテマラのプエルト・ケツァル港では、1缶2米ドルのコカ・コーラを注文すれば、Wi-Fiを1時間無料で使えるようになっている。ところが、夜に訪ねると、飲み物は1~2ドル値上げされると同時に、Wi-Fiの使用時間は30分間と減った。こういうとき、英語やスペイン語ができる人は、交渉したりしていたが、大概の日本人の乗客は不得手のようだった。

 クルーズ船側のサービス向上はもちろん必要だが、乗客それぞれの努力が求められる時代になってきている。前述したように「学習が好き」というイメージを持たれる日本人だが、今回のクルーズを見ると、年齢も他に比べ高いこともあって、意外と保守的で時代の流れについていけていない様子が垣間見えた。

 衛星を使っていて、空が開けた場所ならどこでもインターネットにつながるスターリンクの普及によって、クルーズ船全体の通信環境は抜本的に改善されるだろう。そうした「サービス向上」によって、日本人乗客全体のインターネット利用水準を高めることはもちろん重要だが、おのおのの個人としての努力も必要だ。

 この原稿を作成するさなかに、中国のSNSで「外国人旅行者が日本国内旅行中に困ったことの第1位は『Wi-Fi環境がない』ということだった」というニュースを読んだ。

 新しいニュースなのに、既視感のあるニュースだ。というのは、この種の情報がほぼ毎年のように出てくるからだ。問題だらけのマイナンバーカードを見ても、インターネット環境の整備に対する日本社会全体ないし国全体の取り組む姿勢と決意が中途半端だという最大の問題点が透けて見える。

 こうした環境の中では、企業や個人としての努力と取り組みに100点満点を求められなくなってしまうことも自然な流れになってしまったのでは、と思う。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)