メタ(フェイスブック)、X(ツイッター)、オープンAI(ChatGPT)など、米IT企業はテクノロジー開発において世界を牽引している。しかし、ハーバードビジネススクールのジェフリー・ジョーンズ教授は、米IT企業に「姿勢」に警鐘を鳴らす。さらにジョーンズ教授によると、日本企業はAI開発を取り巻く問題を解決できるかもしれないという。その内容と、日本企業の取るべき姿勢とは?(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
米IT企業はテクノロジーの発展が生んだ悪影響を
「なかったこと」にしている
佐藤智恵 2023年5月1日、世界のAI研究の第一人者、ジェフリー・ヒントン氏が米グーグルを退社したことが明らかになりました。その理由は「AIのリスクについて自由に発言するため」でした。ヒントン氏の決断をどのように評価しますか。
ジェフリー・ジョーンズ アメリカのIT企業が開発してきたテクノロジーは、過去数十年間にわたって、想定外の影響を社会にもたらしています。
フェイスブックやツイッター(現・X)は、偽情報を拡散したり、政治的分極化を引き起こしたりするためのツールとして悪用され、インスタグラムの出現は、若者の間でルッキズム(外見至上主義)が広がるきっかけとなりました。「若者が外見に異常なほどに執着する現象」は、世界中で深刻な社会問題となっています。
ところがアメリカのIT企業はこうした自社のテクノロジーやサービスがもたらした良い影響ばかりを強調し、悪影響については一切、言及していません。それどころか、まるで悪影響などないかのような態度を貫いています。
こうした中、ようやく、AIの危険性について警鐘を鳴らす世界的な権威が登場しました。それがヒントン氏です。
ヒントン氏は、グーグルを離れてAIのリスクについてもっと自由に発言したい、と退社を決断しました。この行動は大きな反響をよび、AIの功罪について、広く議論する機運が生まれました。これは勇気ある行動だったと思います。
AIなどの最先端テクノロジーを開発する企業や専門家は、開発して終わりではなく、自分たちが開発したテクノロジーが社会にもたらす影響についても責任を持つべきだと思います。