日銀のYCC柔軟化は妥当、緩和継続の「約束」は国民の信頼失うリスクにPhoto:Bloomberg/gettyimages

日本銀行が、YCCの柔軟化に踏み切った。次の焦点はマイナス金利をいつ解除するか、である。植田総裁のフォワード・ガイダンス観に従えば、物価上昇率が2%を超える状態が相当程度続いてもマイナス金利を継続する可能性がある。しかし、それはインフレに苦しむ国民からの信頼を失わせるリスクがある。(大妻女子大学特任教授・京都大学公共政策大学院名誉フェロー 翁 邦雄)

YCC柔軟化は妥当な第一歩
タイミングも適切

 植田和男氏が日本銀行総裁に就任した4月、筆者は、日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)は長期金利の固定相場制であり、YCC解除は変動相場制への移行だから、金利修正予想と切り離せる時期に解除を実施することが望ましい、と書いた。

 歴史的に見て、移行時に相場水準の大幅訂正が必要な場合には相場が急変動し市場は大きく混乱するから、というのがその理由であった。

 今回、日銀は、短期金利の誘導目標の変更は当面ない、と予想されている中でYCCの柔軟化に踏み込んだ。柔軟化は、撤廃ではないが、その両者の距離は見かけほど大きくない。

 植田総裁は記者会見で、オーストラリア準備銀行のYT(イールド・ターゲット、YCC類似の政策)からの離脱(2021年11月)の経験についても言及し、対応が後手に回ってからでは大変なことになる、と説明した。今回の日銀のタイミングの選択は適切であり、妥当な判断に思える。

 現時点の最大の関心は、これがマイナス金利政策からの出口という本格的な金融政策変更の前触れなのか、という点だろう。前のめりの記事も散見されるが、市場では金融緩和の維持を見込んだ円安も進行している。本稿では、この点について、カギを握るとみられる植田総裁のフォワード・ガイダンス観を軸に検討する。