しかし、昨今の3~4%程度の消費者物価指数ベースのインフレ率を考えるとしても、定期昇給込みでもインフレによる生活費の上昇をカバーできるかが危ぶまれる。加えて、そもそも、物価上昇率と比較すべきはベースアップ率なので、国家公務員の報酬は物価上昇に全く追いついていない。

 これでは「官庁の中の官庁」とも呼ばれる財務省の職員をはじめとして、国家公務員が「デフレ好きの、インフレ嫌い」になるのは無理もないことであるように思われる。天下国家の観点から政策を論じる公務員も、天下国家の議論以前の生活実感に無意識のうちに影響を受けることがあるのではないか。貧乏が身につくと、周囲も貧乏にと、すなわちデフレを望むようになる。

「安いニッポン」解消の
トリガーは賃上げ

 今年から来年にかけてはマクロ経済政策上、デフレからの脱却を果たし、賃上げとマイルドなインフレの好循環を確立できるか否か重要な岐路に立つ重要な時期だ。

 公務員の給与は、純然たる公務員だけでなく多くの職場で参照され影響力が大きい。現在のような仕組みだと、インフレの環境下では公務員の給与の伸びは参照される民間企業の給与の伸びを後追いする形になるので、公務員は「賃上げとマイルドなインフレの好循環」を実感するのが1年遅れることになる。

 人事院の勧告は、現在の仕組みではこの程度で仕方がないとして、今回に関しては、政治的に特別にインフレ対応加算を考えてよかったのではないか。人事院に追加の勧告を求めるような形で公務員の給与アップのスピードを政治的に加速することが適切だったのではないか。

「賃上げ」が十分に行われて国民が年率2%程度のインフレを「常態」だと感じてくれるようになれば、日本銀行にも現在の金融緩和政策を見直す余地が生まれる。すると、為替レートの円高を通じて国民の生活費の抑制にもつながるような好都合な波及効果を生む可能性がある。「安いニッポン」を解消するトリガーは明らかに賃上げにある。政治が動かせるのは、公務員の賃金だ。

 主には来年の春の民間企業の賃上げが、手取りベースで物価上昇を上回る「実質賃金の上昇」を実感させるものであるかどうかに当面の日本経済の行く末が懸かっているが、岸田政権はその気になれば、公務員の給与の特別加算を通じて賃上げの流れをつくることができるはずだ。