かつて、若手の育成は“経験重視”で行われてきた。そのため、仕事を依頼する際に「とりあえずやっておいて」と明確な指示を出さず、若手に失敗を経験させて「ダメ出し」をするのがセオリーだった。しかし現代では、上司のダメ出しに心が折れたり、ふてくされたりしてしまう若手も少なくない。数多くの企業で管理職向けにマネジメント関連の講演を行ってきた著者は「とりあえず依頼」は、絶対にNGと指摘する。昭和の育成から脱却する方法とは?※本稿は、横山信弘『若者に辞められると困るので、強く言えません マネジャーの心の負担を減らす11のルール』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。
若い部下を早く成長させたいなら
「経験重視」の指導は逆効果
若い部下を早く成長させたいとき、教育なのか、それとも経験なのか。どちらを重視したほうがいいのか。
組織行動学者のデイビッド・A・コルブ氏が提唱した「経験学習サイクル」からすれば、経験重視と言えるだろう。
経験学習の4つのプロセスは、次のとおりだ。
(1)実際に経験する(具体的経験)
(2)多面的な視点から振り返る(観察・反省)
(3)新しい考えや理論を作り上げる(抽象的概念化)
(4)新しい考えや理論を試してみる(活動的実験)」
このサイクルを連続的に実践することで、ものごとを深く理解できるようになる。自身の現状を正しく認識できるし、当然、その過程において仮説検証力もアップする。
だが、私は20年近いコンサルティング経験から、この「経験重視」の姿勢はやめたほうがいい、と思っている。
時代は変わった。
昔は一部のコンサルティング会社が独占していたノウハウやメソッドも、今では誰でもすぐ手に入る時代だ。そんな時代に経験からスタートさせるやり方は、果たして支持されるのか。若者の成長を遅くさせるどころか、本人のやる気を著しくダウンさせることになるのではないか。
「とりあえずやってみて」はもうNG
そんな昭和の修業はムダな努力
多くのマネジャーに問いたい。部下に仕事を依頼する際、
「わからないなりにやってみて」
「まずは、自分で考えて手を動かして」
こんな曖昧な表現を使っていないだろうか。
特に注意すべきは、「とりあえず依頼」と呼ばれるものだ。
「とりあえず、この分析をやっておいて」
「どんな教育が最近のトレンドか、調べておいて」
このように思いつきで仕事を「とりあえず依頼」するマネジャーは、気をつけたほうがいい。
これらの依頼は目的が明確でないゆえに、部下に質問されてもマネジャーは答えられない。
そのため、「この分析は何のためですか?」、「どんなデータを集めればいいですか?」といった質問に対し、「自分で考えろ」と頭ごなしに叱って、部下は指示不足の中で仕事を進めることになる。