国民は、その問題の当事者である官僚の知見を知りたいだろう。また、官僚の意見は、政策面での政治家の暴走を防ぐ上でも有効だろう。この国の政策には議論が圧倒的に不足している。

 日本の国民が、行政に全く素人の政治家を受け入れ、選挙を一種の人気投票のようなものとして許容してきた背景には、「政治(家)は頼りなくても、日本の官僚は優秀だ」という信頼があった。しかし、今その信頼が崩れようとしている。官僚組織の存在意義に関わる危機ではないか。

公務員の賃上げを祝う
「ムード作り」が政治家の仕事

 高邁(こうまい)な政策的理想の追求は必要なのだが、何事もお金で評価されやすい今日にあって、お金の問題はやはり重要だ。

 例えば、ざっと3000万円前後と推定される事務次官の年収は、カテゴリーチャンピオンの報酬としていかにも安い。上場企業の経営者の年収が不況でもデフレでも上がり続けてきた今日、あまりに大きな差が付いた。これでは、部下たちも力が出まい。

 人事院的な用語では「勤勉手当」に相当するのかもしれないが、少なくとも局長級以上の官僚は、業績や能力の評価によっては、給料収入を凌駕するようなボーナスがもらえる仕組みがあっていいのではないか。

 また、民間の優秀な人材の引き抜きも、期限付き・権限なしでお金だけ払って、まるで動物園が珍獣をレンタルするような形で雇うのではなく、十分な権限と立場とを与えた上で行うべきだろう。

 公務員の人事制度については、根本的なコンサルティングプロジェクトが必要な大問題なので、話題にきりがないが、当面、公務員の賃金を思い切って引き上げることは大いに望ましい。この点は、はっきりしている。

 すでに、税収は毎年の政府見通しに対して上振れしているが、「賃金の上昇を伴うマイルドなインフレ」となれば、人件費の増加に見合う分の相当部分が税収として戻ってくるはずだ。もちろん、賃上げは将来にわたって収入が増えることが予見できる給料を中心に行うべきだ。ケチな一時金では、貯め込まれてしまって消費に十分回らないことは過去の給付金で経験済みだろう。

 各種の学校の先生、自衛官、福祉の仕事の関係者など、公務員の給料に連動して賃上げを提供したい関係者は数多存在するし、公務員人材の質的・量的確保は喫緊の課題だ。

「民間企業も、当然後に続くだろう」という前提の下に、まず公務員から率先して「実質手取りでプラス」の賃上げを当面「政治主導で」行うといい。その間に、報酬のベンチマークの決め方も含めて、公務員の人事制度を根本的に見直すといい。元々はコンサルティング業界のご出身である川本総裁には、そのための道作りを期待したい。

 一方、岸田首相に期待するのは公務員の給与を当面追加で5%くらい上げる政治主導の官製賃上げだ。官民双方で賃上げを祝うムードづくりが政治家の仕事だ。小手先の対策よりも少子化に歯止めをかける上で効くだろうし、国力の向上を通じて、米国から旧式の武器を高値で買うよりも長期的にはよほど国防の役にも立つのではないか。

 お金は「人に対して」有効に使いたい。