原油価格Photo:PIXTA

8月10日に原油相場は高値を付けた。サウジアラビアなど産油国の協調減産が相場の底を支えている。しかし、一方で中国経済の回復の遅れが相場に影を落としている。米国の景気の堅調さも米長期金利上昇を通して相場の頭を抑える。しばらくは方向感の乏しい展開となりそうだ。(三菱UFJリサーチ コンサルティング主任研究員 芥田知至)

不動産不況にあえぐ中国経済の
先行き懸念強まる

 7月以降、原油相場は上昇傾向に転じている。8月10日には米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル当たり84.89ドルと2022年11月中旬以来、欧州北海産のブレントは88.10ドルと今年1月下旬以来の高値を付けた。

 しかし、サウジアラビアの自主減産によってなんとか支えられた相場であって、中国景気の軟調さなどを勘案すると、今後も騰勢を続けるのは難しいかもしれない。

 7月初めの原油相場は必ずしも強気ムードが優勢だったわけではない。3日は、サウジが日量100万バレルの自主減産を8月も継続すると発表したことやロシアが8月に同50万バレルの原油輸出を削減すると発表したことが買い材料だったものの、世界的な景気減速や米欧の利上げに対する懸念が続き、相場は下落した。

 しかし、米国市場が独立記念日で休場の4日のブレント原油はサウジなどの供給削減方針が改めて好感されて上昇した。

 5日の米国市場では、WTI原油が買い進まれた。サウジのアブドルアジズ・エネルギー相が、OPECプラス(石油輸出国機構および同機構非加盟の産油国)は「必要なことは何でもする」と原油価格維持に積極的な発言を行ったことも強気材料だった。

 7日は、6月の米雇用統計で就業者数が市場予想を下回ったことが、9月以降の利上げ観測を後退させてドル安につながり、原油相場は上昇した。

 12日は、6月のCPI(米消費者物価指数)の前年同月比の上昇率が市場予想を下回ったことが原油買いにつながった。米国の利上げが7月25~26日のFOMC(米連邦公開市場委員会)であと1回行われた後は、見送られるとの見方が強まったため、長期金利低下やドル安が進み、原油相場を支援した。

 弱気材料もあった。17日は、4~6月期の中国の実質GDP(国内総生産)が前年比6.3%と上海の都市封鎖(ロックダウン)の反動で伸びが高まったものの、市場予想には届かなかったことで、同国の石油需要に対する懸念が強まった。

 しかし、18日は、米週次統計で原油在庫の減少が予想される中、17日発表の米シェールオイルの生産動向で8月は減産が見込まれたこともあり、需給引き締まり観測が強まった。中国国家発展改革委員会は消費の回復と拡大に向けた措置を追加すると表明したことも拍車をかけた。

 21日は、ウクライナ情勢の悪化が原油供給にも影響するとの懸念が原油買いにつながった。17日にロシアがウクライナ産穀物輸出合意の履行停止を発表し、その後ウクライナの黒海沿岸地域への攻撃を強化したのに対して、ウクライナも応戦し、双方が敵方に向かう全船舶が攻撃対象になると警告する状況となった。

 25日は、前日に中国では中央政治局会議が開催され、マクロ経済政策の調整を強化し内需拡大に注力する方針を示したとの報道が相場を押し上げた。また、ウクライナ情勢の悪化で、エネルギー商品の供給に影響が及ぶと懸念されたことも押し上げ材料とされた。

 翌26日は、米週次統計で原油在庫の減少幅が市場予想を下回ったことが売り材料となり、5営業日ぶりに下落した。FOMCでは、0.25%の利上げが決定されたが、市場ではほぼ織り込み済みとの反応だった。

 4~6月期の米実質GDPが市場予想を上回ったことや、米新規失業保険申請件数が雇用の堅調さを示したことで、27日は、米景気減速懸念が後退して、原油買いにつながった。28日は、米欧の利上げが最終局面に近いとの観測や、米景気がソフトランディングに成功するとの見方が相場を支えた。