4月初旬、OPECプラスを構成する複数の産油国が自主的に原油の生産量を大幅に減らす方針を表明した。メディアは「サプライズ」減産、油価上昇は続くとの見通しを示している。長期連載『エネルギー動乱』の本稿の前編では、原油価格は当面「80~100ドル」のボックスで推移すると筆者が予想する根拠を産油国の動きを基に明らかにするほか、原油価格の高騰がロシアのウクライナ戦争に与える影響について論じる。近日公開の後編では、サプライズ減産が米国とサウジアラビアの関係に及ぼす影響などを考察する。(エネルギーアナリスト 岩瀬 昇)
原油価格は「80~100ドルのボックス」予想
油価「より高く、より長く」の影響は?
2023年4月2日、石油輸出国機構(OPEC)とロシア主導の非OPEC産油国で構成する「OPECプラス」のサウジアラビア(サウジ)など数カ国は、5月から23年末まで日量約116万バレル(116万B/D)を「自主減産」すると発表した。3月から50万B/Dを自主減産しているロシアも同調し、年末まで延長するとした。
これを受け、原油価格の軟調を見込んでショートポジションを取っていた投機筋が、週末にもかかわらず電子先物市場で買い戻しに走ったため、国際指標であるブレント原油は79ドルから86ドルにまで急騰した。
メディアは、機関決定ではなく「自主」減産であることに目をつぶり、OPECプラスによる160万B/Dの「サプライズ減産」だと報じた。
だが、筆者にとっては、けっして「サプライズ」ではない。なぜならサウジは「できれば100ドル、少なくとも80ドルは欲しい」というのが本音だとみていたからだ。
従って、油価も当分は「80~100ドル」のボックス圏だろうし、もし長期間70ドル台に落ち込んだままならサウジは減産に動くだろうと読んでいた。
米政府は昨年10月「米原油先物のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が67~72ドルになったらSPR(戦略石油備蓄)を買い埋める」と発表していた。今年3月中旬、米シリコンバレー銀行破綻による先行き不安からWTIは60ドル台後半に落ち込んだ。
ところがグランホルム米エネルギー長官は3月23日に「年内の買い埋めは難しい」とコメントした。数十万B/Dの新規需要が来年以降に後ろ倒しになったことになる。
これがサウジを動かしたと報じられている。米国が前言を翻したことに怒ったサウジがサプライズ減産をしたので、米サウジ関係はこれまで以上に厳しいものになるだろう、と。
これらの動きを踏まえて英フィナンシャル・タイムズ(FT)は4月8日、『OPECの賭け:世界経済はさらなる油価高騰でもやっていけるのか?』と題する記事を掲載した。今回のサプライズ減産が、原油価格を「higher for longer(より高く、より長く)」することにつながったら世界はどうなるのか、次のように概観してみせたのだ。
(1)ウクライナ侵略中のロシアの石油収入が潤い続け、戦争継続能力が強化される?
(2)サウジは今よりも米国と離反する?
(3)そして、今でも脆弱(ぜいじゃく)な世界景気はホンモノの不況に突入する?
だが、この記事は「さらなる油価高騰」すなわち「higher(より高く)」とは、現状よりどのくらい高くなることを想定しているのか、いっさい記述していない。また、指摘の3点についても疑念が残る。そこで本稿では、これらの諸点について考えてみたい。